ロジパラEXT

□怪物は多忙極める
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[この身朽ち果てようとも君を想う]





例えばどんなに肌を重ねたって
愛を囁いたって
唯一無二の彼には敵わない。
どんなに抱きしめたって
どんなに口付けたって
その心の核を塗り替えられない。
本能任せに食らいついたって
君の心は得られやしないし
抜け殻じゃあ愛しく思えない。
核心は揺らぐ事なく家族への愛。
そんな君だから、愛してる。
今も昔も、ずっと─────。




『・・・・』



写真の中で微笑むのは
彼女と彼と小さな天使。
今では見られない
幸せそうな笑顔が痛い。
俺には与えられない
安息の微笑みは
どうしようもなく暖かい。
君の隣にいるのが、
俺だったなら良かったのに、なんて
身勝手極まりない嫉妬を
抱く日もあるけど。




『烈将、何を見て───』



『・・・思い出でやす、アナタの』



『───ああ。家族写真か』



俺の中に募る醜い気持ちとは裏腹で
何でもない顔をして紅茶の入った
ティーカップをテーブルに置き
ソファーにゆっくりと腰掛けた。
俺は彼女の隣に座って写真を掲げる。
『幸せそうですねぇ』と呟いたら
彼女は俺の肩に頭を乗せて
『幸せだったよ、とても』と囁いた。
赤みがかったサラサラの髪。
ふわりと香る甘い匂い。
今では当たり前になってしまった
君との距離感が時々
嫉妬を増幅させるんだ。




『時折───』


『ん?』


『羨ましく思います。彼が』


『どうして?』


『貴女の心は、常に彼と共にある。死して尚、ずっと』


『・・・そんなことないよ。朔月はもういない。美月もいない。いないものは思い出の中にしか生きられない。だから私は彼らを決して忘れないよ。けれど、それは。もう愛とは呼べない。一人不様に生き延びてしまった者の執着と懺悔だ』



『ええ。けれど、貴女は。その理屈と裏腹に今も家族を、彼を愛してる』



『・・・無いものには縋れないんだよ。烈将。思い出は生きる為の活力にするしか無い。無力だった私に架せられた贖罪だ。けど、お前は生きてる。傍にいてくれる。こんな私でも愛してくれる。違うか?』



『違いやせん』



『だろう?私はね。お前と、桐己と三人でいた時。まるで朔月と美月が帰ってきたみたいで、とても幸せだったんだ』



『愁水───』



『幸せは怖いよ。いつ無くすとも判らない。不穏が見えなくなるし。永遠を錯覚してしまう。だけど。新しい幸せと、思い出に尽きる幸せは比例しないことが分かったんだ。それはそれ。これはこれ。そう割り切るようにしてる』



『なかなか難しいですね』



『ああ。とても。だけど、私は。お前が好きだよ、烈将。ずっと隣りにいて欲しいと願うほどには』



『──光栄でやすね、それは』



写真をテーブルに置いて肩を抱き寄せる。
邪魔な彼女の眼鏡を外した。
赤紫色の瞳がとても綺麗で
その眼に見つめられると衝動的に
食らってしまいたくなる。
魔物が愛を語らうなんて百万年早い。
それでも彼女にだけは
触れたい、傷つけたくない
愛されたい、傍にいたいと
願ってしまうのだから仕方ない。
彼女が幸せだと言ってくれるなら
俺はそれだけで充分だから。



『烈将────』



紅茶は冷めてしまうかもしれないが
こんな風に、胸焦がれる日は
少しだけ、許して欲しい。
真っ直ぐな愛を語らえる程
人間染みちゃいないが
この熱が君に伝わるようにと願う。





『ずっと。傍にいますよ。愁水。この身が尽きるまで、ずっと───』





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