ロジパラEXT

□恋する死神
2ページ/13ページ





[Bad dream at Quiet night(A)]




『ねぇ、雪。此処にも雪は降るんだね。私、初めて見た』



『時空間が歪んだ影響だろう・・・。珍しい現象だ』



『鬼恆も見てるかな?』



『・・・さあな。何かと忙しい男だからな、アレは』



『うん。私も頑張らないとね。鬼恆に負けないように・・・』



『・・・ヘカテー。貴女は今のままでいい。僕が守るから、気にするな』



『ありがとう、枯鳥。でも私だって、誰かを守りたいし、強くなりたいよ』



『・・・』



屈託無く笑う彼女が好きだった。
僕を見てはいなかったけど。
それでも彼女が
笑いかけてくれるなら
僕はそれで良かった。
アイツには敵わない。そんなの
子供の頃から判っていたから。
彼女の眼に映るのは
いつだって鬼恆なんだ。
だけど鬼恆は僕にとっても
自慢の弟だったし好敵手でもあった。
死神としては僕より遥かに優れてる。
勿論、そんな事をバカ正直に
本人には言えなかったが。
僕は、きっと。鬼恆もヘカテーも
同じぐらい愛していた。
自分よりも、深く、深く。



『真っ白。綺麗だね。冥府は暗いから、凄く新鮮だよ、ほら。冷たい』



『あまりはしゃぐと転ぶぞ、ヘカテー』



『大丈夫! それより、ほら! 足跡! 面白いね』



『・・・ただの足跡だろう』




『これは私の足の跡。そっちのは枯鳥の。面白くない? こうやって痕跡が残るの。記録として、数分前の過去が証明されてるんだよ。さっきは、此処を歩きましたって。軌跡だね』



『・・・』



『こうやって何もかもが記録されていたとしたら、私がいつか死んでしまっても、その先に私の事を解ってくれる人はいるのかな?なんて』



『死神は、そう簡単に死なないし。僕が今、貴女を見てる。それじゃ駄目なのか?』



『・・・未来の話だよ、未来。枯鳥は真面目過ぎるなー』





淡く白い世界で笑った、綺麗なもの。
余りにも綺麗だったから
眼に焼き付いてしまって。
僕は、彼女を強く抱き締めた。
柔らかくて、優しい匂い。体温。
全部が僕のものだったら良かったのに。
ヘカテーは、あっけらかんとしていたが
その想いは、己の心根に
強く強く突き刺さる。
儚くて、美しいもの。愛しい人。
僕は彼女の為に
在り続けたいと思った。
この身が滅ぶまで寄り添って
彼女が願う「全て」を
成し遂げてみせようと。
ふとした瞬間に込み上げる
愛情は己を縛る為の制約。



『枯鳥?』



『・・・寒いな、少し』



『そっか。じゃあ帰ろうか!』





例え、その先に待ち受ける未来が
暗い暗い闇の中にあるとしても。
僕は、きっと。鬼恆もヘカテーも
離せはしないんだろう。
プライドに阻まれた性質が
言葉を口に出させないけれど。
心なんて見えない方がいい。
僕の感情は僕だけのものだ。
この想いは、生涯。誰も知る事なく
眠りにつくだろう。
それでいい、その方がいい。
雪に残った足跡は、いずれ
溶けて消えてしまうものだから。
儚いもの故、愛しい。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ