ロジパラEXT

□王様の憂鬱
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[My name is「Mr.trash」]




『助けて、誰か! 誰か───!!』




雪景色ってのが何か嫌いだ。
寒いし真っ白で目が痛くなる。
それを綺麗だなんて言う奴もいるけど
俺とは、美的感覚が
かけ離れてると思う。
寒くて眼に痛いものを愛でるなんて
頭がどうかしてると思う訳だよ。
寒いのも暑いのも嫌いだね。
適度がいい。季節なら
春ぐらいが丁度。
けど、その「雪景色」の中
こんなふうに嘘臭く飾られた
イルミネーションの方が
俺は、もっとずっと嫌いな訳で。
「眼に痛い白」+「電飾まみれ」
なんて「猥雑」以外の何者でもない。
そして「猥雑」=「不愉快」だ。
俺は、仕事もそこそこに
さっさと退散しようと思っていた。
何とかって世界の
何とかって街の一角で
なかなか哀れな子羊を見つけて
少し楽しくなるまでは。
異形だか何だかって。
悪魔とは違うゴミみたいなもんに
襲われていたから
興味が湧いて、暫く観察していたら
『王様の人でなしー!!』と
ゼノに思いっきりド突かれた。
人でなし。最初から
人じゃないんだがね。
俺のキャパシティについて
そう言っているのなら
偽蝙蝠如きに言われたくない。
何となく、ムカついたから
彼をそいつらの前に
放り投げてやったら
ピーピー泣きながら
人でなしの俺に助けを求めて来たので
ちょっとだけ笑えた。




『だーあああっ、あうあうー!! 助けて王様ー!! 俺、死んじゃうよー!!!』



《アアアアアアアア・・・魔ガ、あ、魔───、我、を、我ヲ──》



『キャアアアアッ!! 王様へるぷみ!! へるぷみ! 変なのが俺を食べようとしてるー!! まがまが言ってるよー!!』



『うるさい。人でなしに何を求めてるんだよ、ゼノ。俺は、そんなにお人好しじゃないんだ。残念だったねー。サヨナラ』



『ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!! 謝るから、へるぷみ!へるぷみ!』



『言葉に愛が足りないねー。上っ面。まあ、いいさ。君だから仕方ないね。馬鹿だもんね。けど、君にだって使い道の一つぐらいはあるのを、俺、知ってるよ? だから後で、俺のお使いを頼むね。それでチャラにしてやろう』



『ラジャ!! そんな事でいいなら、幾らでも!!あ、でも、王様!! ついでに女の子も助けてやってくれ!! 食べられたら可哀想だー!!』



『君が代価を払うならね』



『え、何で俺?』



『だって、それは君のお願いだろー?』



『・・・ぬぬぬ。わ、判ったよー・・・腑に落ちないけど』



『あ、あの・・・アナタ達は・・・?』



『アハハハハハ。君、良かったねー。ゼノに感謝しなよ。人間の君一人なんかじゃ到底払えないような代───』



『王様、後ろー!!』



人が話してる時に、邪魔する奴って
本当に目障りだと思うんだ。
ゼノは、よくそれをやるから
そのたんびに張り倒すんだけど
どうにも学習能力に乏しい。
だけど、一番嫌いなのって
後ろから来るような
空気の読めない奴。
女の子とゼノが後ろを指差して
ギャアギャア騒ぐから
振り返ったらバケモンが
俺の頭の位置で大口を開けていた。




『うっざ。空気読めよ、ゴミ野郎』



《!?》



『お、お、お・・・王様、それ、アカシックレコード!! また粗末に扱って!!』




アカシックレコードって
記録大全なだけあって
なかなか分厚いから。
こんな時、便利だ。
それをバケモンの口に
ひょいっと突っ込んでやった。
みっともない様で
俺を見つめるソイツは
十秒もしないうちに
ドロリと造形を崩す。
その醜い姿に、なんとなく
旧友を思い出した。
ドロドロぐちゃぐちゃ。美しくない。
俺も人の事言えた義理では無いけど。





『これね、すんごく神聖なものなんだって。弱者はさ、触る事も許されないとか』



《アアアアッ!! ガッ、グアッ───》



『痛い? 可哀想に。でも、駄作に価値無し。消えろバーカ』




煮崩れたように溶けた肉塊は
汚いから灰に返した。
何のことはなく、煙草用に
持ってたマッチで火を着けたら
思いの他、よく燃えたから
多分きっと可燃ゴミってやつなんだろう。
こんなものに魔力を使うのは
馬鹿げてるし。これで丁度良い。




『王様、記録大全で何してんじゃー!! 何処の世界に、神聖なアカシックレコードを小汚い魔物の口ん中に突っ込む奴がおるんじゃー!!?』



『うるさいな。此処にいるんだよ。本は何も読むだけが全てじゃないんだよ、ゼノ。殴れば鈍器にもなるし、突き刺したりもできる。便利なものなんだよ』



『いいや、王様!! 本は読むものです!!』



『あー。うるさいなあ、うるさいんだよ、君は。君も、これで殴られたいのか?』



『やめて!! それ以上、記録大全をぞんざいに扱うのはやめて!! 俺達、管理局に殺されるよー!!』




『大丈夫だよ。俺、本があろうがなかろうが。ペテロ並には強いから。来るもの拒まずさ。美男美女に限り幾らでも相手をするよ。主に身体で』



『王様、ヘラヘラ笑ってるけど、管理局は怖いぞ。侮れない!』




『あ、あの・・・』



『なにかな?』



『ありがとうございます・・・その、助けて頂いて・・・』



『だってさ、ゼノ』



『おうおう! 気にするなー! 俺は正義のコウモリだからな!! か弱い女を助け───』



『あの、良かったら、お名前を・・・っ』




『って、俺かよ』




『ガーン!! な、何で、王様の方に行くんだよ!? 王様は良いとこ取りか!?』



『まー。君みたいな風船まんじゅうに比べたら俺の方がスマートに見えるからかもな? けど、悪い気はしないねぇ。俺、女の子は好きだよ。何にしたって柔らかいし、可愛いし、あったかいし、いい匂いだから。抱くなら女の子の方がやっぱりいい。あー。でも、名前ねー。それは難しいなあ。悪魔は、簡単に名乗るもんじゃないし。・・・あ、じゃあ。ヒースでいいや。ヒース・ヴァルバトス?』



『ヒース、さん?』



『そ。で、どうしても俺にお礼がしたいって言うなら。簡単だよ、ついておいで』



『え、あの・・・、・・・・』



『王様!? 待て、ついて来いって、何処で何する気だ、あんた!!?』



『そんな判りきった事を。ゼノ。俺はね、何よりも、美味しいものと、気持ちのいい事が大好きなんだ。以上』



『へ、変態!! 変態だ、逃げろ、女!! 王様の変態スイッチがオンになってるぞ!! このスマイルは危ないやつだ!!』



『ヒースさん!! 笑顔が素敵!!』



『あ!? あれ、手遅れだ!! メロメロだ!! 王様、女に幻惑かけたな!? これアカンやつや!! 朝までふぃーばーして、お持ち帰りフラグやな!!?』



『だって仕方ないだろ。お礼がしたいって言ってるんだから。熱帯びた眼で見られたら応えてあげるのが男の甲斐性と言う奴だよ。まあ、俺も暇だし、ちょっと遊んでから帰るよ。ゼノはさ、その間にでも。この店に行ってこのメモに書いてあるものを買ってきてくれ。さっきの代価だよ』



『なんだ? ふむふむ。あだるとしょっぷニャンニャンパラダイス・・・? 最大級の品揃え・・・』




『じゃあね、頼んだよ』



『は!? ちょ、これ何かイヤらしいあれだろ!? 王様!? 待て、王様ー!!』



ゼノの声は聞こえていたけど
それより何より。
今は目の前の快楽を。
こんなつまらない季節でも
少しぐらいは
愛せる理由が欲しいからね。
少し贅沢を言うなら
もっと可愛い娘が良かったけど。
まあ、いいや。たまには。
頭と下半身は、別物だしね。






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