ロジパラEXT

□Lost Phase
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[忍び寄る悪夢]




微かに心を彩るものを
塗り潰すならば漆黒に。
闇の中、何も見えないよう。






─────────ドカァアンッ!!





『───来たか、外道』




ある昼下がりの事だった。
平穏は突然、望まれぬ
来訪者の手によってぶち壊された。
予定調和と言えばそうだったかもしれない。
死に損ないの死神を拾ってしまった時から
全員が、それなりに覚悟はしていたから。
準備万端とまでは行かなくても
なんとなく。こんな風に不穏がやってくる
そんな気がしていたものだから。




『こんにちわ』



──宙に佇みニッコリと笑う男。
とても見覚えのある顔だった。
彼の背後に紫色の魔法陣が浮かび上がり
ビシビシと耳障りな音を立てる。
空が一瞬、鉛色に歪んだかと思うと
次の瞬間、轟音と共に魔法陣から
巨大な龍が姿を現し時幻党の壁を
粉々に吹き飛ばした。
龍は一点を目掛けて集中砲火する。
場所にして、犬神の部屋付近。
相手の目的はすぐに判った。



『実に唐突で、雑で、不粋な攻め方だ。好感は持てんぞ、やり直しだな。死神君』



愁水は己の頭上を飛び交うそれに
臆する事もなく
腕を組みジッと空を見上げた。
男と目が合い呆れたように笑ってみせる。
しかし、彼は問答無用で、彼女を目掛けて
燃え盛る炎の矢を放った。
やれやれ、と溜め息を吐く愁水の前に
強い風が巻き起こる。



『うちで家主に手を出すのはミスターを爆撃する以上にタブーでやす』



無数に放たれた炎の矢は
辺り一面を焼き払い、一つが愁水の
胸を貫こうとした瞬間。
烈将が姿を現し、愁水を守るよう
いつも懐に忍ばせている短刀で
素早くそれを凪払った。
落ちた矢は激しく燃え盛る。
彼との間に立ちはだかり
長い前髪の隙間から相手を睨み付けた。



『うちは少人数だが、皆、有能なんだ。君一人じゃ事足りんよ。死神君』



『知ってますよ。時幻党の連中は厄介者の集まりだと聞いてますから。ああ、ご挨拶が遅れました。僕は犬神カラス。弟がお世話になっているそうじゃないですか。党首様には大変ご迷惑をお掛けしたようなので、兄として責任を取りに参りました』


『人の家を燃やしておいて、よく言うね。彼よりも、君の方が迷惑極まりないと思うのだがね』



『ええ。そりゃあ兄ですから。彼を上回るでしょうね、全てにおいて』



カラスが右手で印を組むと、空間が裂けて
今度は紫色の龍が姿を現した。
それは咆哮をあげながら愁水と烈将を目掛け
一直線に向かってくる。腐食の龍。
触れたものを腐らせると言う
不吉の炎を纏っている。
流石に、抗戦を余儀無くされ
彼女は『やれやれ・・・』と呟いて
指を強く噛んだ。
滴る血液を足元に落とすと
召喚句を詠唱しはじめる。


『剣を持ち闇を纏い、平等に死を謳う。業と炎を司り、欺瞞と欲望を統べる狡猾の王よ。我は其の真名を知る者なり。我が血と名においてお前に命ずる。古の約束を果たし我が術となりて、此処に道を示せ』



───────キィイイイッ!!!



耳をつんざくような金切り音を上げ
愁水の足元に赤い魔法陣が広がった。
そこからバサバサと真っ赤な蝶が
無数に舞い上がったかと思うと
次々に、重なって人の形を成して行く。



『こんなくっだらねえ事でいちいち呼ぶんじゃねえよ、バカ女』



『お前の力が必要らしい。あれをどうにかしてくれ。これ以上家が壊されるのは勘弁願いたい』



『祟場はどーしたんだよ?』



『誠人には死神が攻め入った際に犬神君達の護衛に回るよう頼んであるから、今は浄化の雨が使えない。これだけの火力を持ち出されれば、火を以て火を制すが得策だろう。お前の得意分野じゃないか、イノセント?』



『賢明なのかズボラなのかわかんねぇな。俺にやらせようってのが図々しいんだよ、お前は』



『いいや、これは言うなれば信頼だよ。お前が一番向いてる戦いだと判断したのさ。無粋で面白みの無い侵略は得意だろ?頼んだよ』



『ハッ、傲慢もそこまで行くといっそ清々しいな。いいぜ、貸しだ。愁水。高く付くから後で覚悟しとけよ?』



二匹の龍は炎の雨を撒き散らしながら
イノセントに標的を変え身体をうねらせた。
烈将の風神結界が、パラパラと降り注ぐ
火の粉を弾き飛ばす。
イノセントは結界から外に出ると
ニヤニヤと邪な笑みを浮かべて
自分を見下ろす相手を見つめた。
二匹の龍、炎の矢、明らかに障害物であろう
彼に全ての攻撃が向かう。
向かい来る矢を避ける事もなく
あっさり全身を貫かれた彼は
がくりとうなだれた。



『・・・メフィストフェレス』



『ククク。アハハハハ、その名前で呼ぶんじゃねぇ・・・糞犬が──────』



ダラダラと、血にまみれ
だれた背中から血液が噴き上がる。
それは意識を持つかのように
ゆっくりと、羽の形に連なった。
足元の血だまりも蠢き始める。
無数に枝分かれ槍のように鋭く尖って
形を成して行く。


『炎の矢、ねぇ。随分と陳腐な術を使いやがる。が。火力は充分だ・・・火力だけな。けど?けーど?冥府の炎は効かねえぞ、俺は、その上位者だ』



腐食の龍が大きく口を開けて
イノセントを飲み込んだが
次の瞬間、龍は紅蓮の炎に包まれた。
身体の中から焼かれたのか
呻き声を上げて散華する。
カラスの放った集中攻撃は、どれ一つとして
彼にダメージを与える事はなかった。
舞い散る灰をよそにイノセントは
何事もなかったかのように立ち尽くし
相変わらずニヤニヤと笑みを湛えていた。




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