猫は煉獄で夢を見る

□零の世界にて
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非常警報、非常警報
空間転移システムの起動エラーにより
この機体は只今より
Lost Of EMPTY.に突入します。
各自、警戒態勢に入ってください。
繰り返します─────。






─memory×1─






人間は、己が何者かどうかを
常に問いたがるらしい。
意義、意味、理屈をかこつけて
“理由”を欲しがるんだって。
僕にも、それがあるとしたなら
『考えるネコ』以外の何者でもない。
いつもなにか考えてる。
何を考えるかは気分次第だが。
晩ご飯についてとか
最近の天気についてとか。
今日は朝から尻尾について考えていた。
何をどうやったら、もっと長く
格好よくなるのか試行錯誤していた。
ピンと張ってみたり、クルクル回してみたり
どうも『格好いい尻尾』の基準が
そもそも判らない僕には
その答えを見つけ出すのも困難だったようで
結局、答えは見つからずじまい。
でも、艦内警報が鳴った瞬間
そんな事どうでもよくなった。
“ロストオブエンプティ”俗に言う煉獄。
からっぽの世界に迷い込んだ
我が戦艦の悲劇を思えば
尻尾の長さがどうとかこうとか
至極どうでも良いことのような
気がしたから。




『おい。毛玉、やばいぜ。外見てみろよ』



僕の名前はブレインシュタイン。
でも誰もそう呼ばない。
一人はタマと呼び一人は猫と呼ぶ。
操縦士のラグに至っては僕を毛玉と呼ぶ。
なかなか失礼な男だ。




『なんだろうなあ、この歪み。性質を知りたい。どう言う原理で、時空が波打ってんだか』




ぐにゃぐにゃ揺らめく窓の外を指差して
ラグはヘラヘラ笑う。
警報が鳴り止まない辺り
多分、笑い事じゃないんだけど
彼は無邪気に笑ってるから
もしかしたら笑い事なのかもしれない。
まあ。慌てたってどうしたって
死ぬときは死ぬからね。
僕らは呑気に外を眺めてた。




『緊急警報〜緊急警報〜。ってさ。このサイレンを聞くと、何だかこう、熱くなるんだよなあ。昔を思い出して。血が騒ぐってやつかね』




僕は人があまり好きじゃないけど
ラグの頭の上だけはお気に入りだ。
無駄にでかいラグの頭の上は僕の特等席。
183cmプラスの世界は景色がいい。




『エンプティな。あんまりいい印象ねえぜ。大した経験にはならねえだろうけど・・・まあ。トラブルなら何でも来い、だな』




『にゃー』




『人生はアクシデントの連続だ。これ、俺の座右の銘なんだよ』




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