ツガイドリ

□自戒─Hatred is in love─
1ページ/11ページ











暗い暗い闇の中で見つけた一輪の薔薇。
鮮烈な赤は、余りにも美しく
この目に酷く焼き付いてしまった。
赤。暗闇の中に一点の赤。
目を閉じていても
その色を忘れる事なんて出来なかった。




『た、助けて─────』




赤。赤。赤を欲してる。
身を焼く程の赤。貴方と同じ赤。
孤高の色。誰も触れられない。
もう一度、俺に。貴方の『赤』を。
恐ろしいほどに美しい。あの色を。
この目を潰しても。まだ。
闇の中に、見えている。
貴方の色だ。あれは。
貴方そのものだった。




──────────ドサッ





腹を切り裂いて。えげつない中身を
全てオガクズに変えてしまったら
この気持ちは治まるだろうか。
俺から離れない貴方の赤が。
今日も。こうして。俺を駄目にする。
貴方が欲しい。貴方が。
貴方の赤が。俺を蝕んで行く。










────────────────────
────────────────────







『連続殺人・・・?』




『巷で騒いでるみたいだな』



『若い男ばっかり、殺されてるみたいだけど・・・遺体の傍らには薔薇の花びら────だってさ』



『この辺の街は。昔から頭のオカシイ連中ばっかりだからな。何も珍しい話じゃない』



『・・・物騒だなあ。イザヤも気をつけなよ? 君、ただでさえ変なのに目を付けられやすいんだから』



『ああ。お前とかな』



『まあ・・・、否定はしない』



届いたばかりの朝刊を読んでいたヴィルは
それをテーブルに置くと、自分の膝を叩いて
俺に座るよう促した。
飼い主が猫を呼ぶ時みたいに。
最近、主従の立場が
逆転してるような気がしてならない。
それはそれで悪くもなく
言いなりになってるのだから
俺も大概だろうけど。
・・・この男の『触りたがり』は
昼夜問わずに、いつも本能的だ。
俺が欲しくなると。すぐに手を伸ばす。
まるで思春期の子供のように
軽率なじゃれ合い方をする事に
随分と慣れてしまった。
以前の俺なら決して考えられないような
とんでもない痴態を晒してると思う。
コイツに愛でられる事に
悦を感じているのだから。
完全に作り変えられてしまったんだろう。
身も心も。全て。彼の思いのままに。





『愛しい人が、痛みに喘ぐ姿は耐え難いものではあるけど───』



『?』



『同時に。言い知れない高揚感を与えられる時がある。判るかな? 可哀想な反面で、その様が可愛く、淫らに見えたりするものなのさ』



『結構、特殊な性癖じゃないか?』



『例えばさ、セックス中に。君が苦しいって眉を顰めても。俺は興奮する訳で』



『それは、お前が変態だからだよ』



『俺は別に、イザヤをいたぶりたい訳じゃないのに。君が泣いたり喘いだりしてるとさ。もっと酷い事をしたくなるんだよ。それって。少しだけ。快楽殺人犯の心理に似てるような気がする』



『・・・。前から思ってたんだが。お前、俺なんかより。ずっと。サディストだよな』



『そんな事ないよ。俺は、君の前じゃいつだって従順な奴隷だもん』



『嘘つけ』




あちこちに。痕をつけて。
満悦そうに舌を舐めずった。
濡れた唇を、少しだけ啄むと
噛みつくみたいに
荒く乱暴なキスが返って来る。
いつも通りのじゃれ合いだ。
いいな。気持ちがいい。
こうやってヴィルに嬲られてると
何か全てが。どうでもよくなって来る。
腰を抱く手が強く俺の身体を引き寄せたから
身を委ねて、肩に腕を回した。




『こんなにさ』



『ん?』



『俺が「欲しい」って。この人の「全部が欲しい」って。そんな風に思ったのは。君だけだったんだ』



『あぁ・・・』




『その意味、わかる?』




四六時中。くだらないほどに。
こんな愛を語り合って。
しつこいぐらい。身体に触れ合って。
それでも飽き足りずに
もっともっととせがみ合う。
限界の無い欲望だ。常に互いを渇望してる。
抱いても、抱かれても、まだ足りない時。
その感情の重さを知っていても
まだ、満ち足りない時に。
世の中で『純愛』と呼ばれているものは。
その溝をどんな風に、埋めるんだろう?





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ