ツガイドリ

□情愛と劣情
1ページ/12ページ







─It's filled in love─



『お前の性に対する貪欲さには、ほとほと呆れる』


『だって、君。ルーレットで勝ったらぬるぬる風呂一緒に入ってくれるって言ったじゃん』


『何でそんな時だけ勝つんだ? お前、何か変な力とか使ってないか? 何か人外の超能力的なやつ』


『神に仕える断罪者に、そんなイカサマ機能はありません』



『・・・』


『なに、その眼!! ホントだからね!? ズルしてないよ、俺!!』


『まあ、そう言うことにしといてやるよ、今回は』



『・・・イザヤって何気に負けず嫌いだよね』



ヴィルと外で食事をして
帰宅したのは午前一時過ぎ。
コートを掛けてネクタイを外し
いつも通りソファーに座って
ワイシャツを脱ごうとしたら
ヴィルが満面の笑みを湛えて
ピンク色の小包を持ってきた。
『入んねーぞ』と不愉快極まりない顔で
彼を睨み付けてみたが
奴は『じゃあ勝負しよう』と
ニッコリ笑って俺のクローゼットから
ボードゲームを引っ張り出してきた。
よく見つけたもんだと半ば呆れつつ
中からルーレットを取り出すと
鼻歌混じりにテーブルにセットして
赤か黒、どちらか選べと言われた。
その機嫌の良さに胡散臭さを感じたが
面倒だったので、適当に黒を選んだ。
ヴィルは『じゃあ赤が出たらお風呂ね!』
と、随分楽しそうに頷いて
ルーレットを勢いよく回した。
怪しい。コイツ、なんでこんなに
楽しそうになんだ?
まるで自分の勝ちを見越してるみたいに。
イカサマか? いや、そんなのを
仕込むような隙は無かったし
このゲーム自体、俺の持ち物だ。
とは言え、ヴィルだって人外だし。
何らかの怪しい力が作用していても
おかしくはない。
実に嫌な予感をたぎらせて
盤面を見つめていたけれど
その予感は的中してしまい
サイコロはカランと音を立てて
赤いマスに止まった。


『やっぱり。絶対イカサマだろ』


『違うってば。俺の愛の力?』


『無効だ、こんなもん』


『イザヤ、勝負でそれは無しだよ。俺がズルしたってなら、何をどうしたのか立証してみせてよ』


『・・・、』


『はい、君の負けね。諦めてお風呂入ろう?』





・・・何で、こんな時間にコイツの
趣味に振り回されなきゃならないのか。
今日ほど、無駄に広い
うちの浴槽を恨んだ事はない。
野郎二人が入っても、十分な広さ。
『狭い』と言い訳も立たない。
ヴィルは俺の頭に顔をうずめて
楽しそうに人の身体を撫で回してる。
ぬるついたお湯が肌にまとわりついて来て
なかなか気持ち悪い。


『お前、ホント楽しそうだな』


『うん。楽しいよ』


『ん・・・っ』


軽く項を噛まれて息がこぼれた。
主に上半身に絡みついていた手が
確信的に下に滑って行く。
耳を舐められて、また声が出る。
どうやら俺は、その辺りが弱いらしい。
俺より俺の身体を把握してるヴィルは
俺が逆らわないように
そうやって、拒絶を封じてるんだろう。
猫が、交尾する時に
雌の首を噛むのと同じように。
ローションとヴィルの
長い指は相性がいいのか
何処を執拗に弄ばれても
それはなかなか悪くなかった。
本能を煽るような
イカガワシイ音が耳を犯す。
さっきから後ろに当たってる感触は
馬鹿みたいに硬くなっている。
何とも言えない征服感が頭を満たした。
欲情してる。俺が欲しくて
堪らないんだろう。
早く繋がりたいと。
こんなにも主張してる。
ぬるついた腕を一つヴィルの
首に回して、キスをした。
焦らして、焦らして。弄ぶ。
勝負に負けたせめてもの抗いだ。
主導権は渡さない。
甘く噛み付いて
ヴィルの舌を吸い上げたり
上顎を舐め回してみたりすると
息を荒げて、顔を真っ赤にする。


『ん──、っ』


『単純な男だな』


胸の辺りをまさぐられながら
少し揺れてるヴィルの腰に気付いて
『挿れたい?』と聞くと
『君は?』と不適に笑って返して来たから
殊更に、嗜虐心は膨れ上がる。
余裕なんて無いくせに。
その笑い方は少し不服だ。
『質問に質問で返すのは良くない』と
自分からそこに腰を落とした。
ゆっくりゆっくり、ヴィルと
繋がって行く感じが堪らない。
大して慣らす事をせずに
多少の痛みを孕んでる方が好きだ。
それでも、ぬるついたお湯の効果は
充分な様で、潤滑には問題なく。
痛いのが嫌いじゃない、この身体は
ヴィルを咥える事にだけ
馴れてしまって、程度をよく弁えている。
身体に絡みつく液体に全身を犯されながら
腰に感じる圧迫感に
ゆっくりと息を吐いた。
いつも容赦を知らない
万年発情期のうちの馬鹿犬は
繋がった瞬間から俺を労る事もせずに
ガツガツと腰を突き上げる。
その激しさは、いつにも増して
酷く加虐的で興奮してるのがよく判った。
乱暴なのに、遠慮を知らないのに
腰が打ち込まれる度に
馬鹿みたいに喘いでる俺は
もしかすると、マゾの資質が
あるのかもしれない。
何度か再奥に叩きつけられて
口端から唾液が滴り落ちる。
弱い所ばかり、しつこく責め立てて
『気持ち良いだろ?』と
俺を覗き込んで、とてつもなく
意地の悪い顔で笑った。
よくヴィルは俺をサディストだと言うけど
セックスの時は彼の方が容赦ないと思う。
俺が眠ろうが気を失おうが
自分が納得するまで
平然と犯し続けてるドヘンタイだ。
けど。気持ち良くて仕方ないと
俺が好きで仕方ないと
快楽に浸る顔が、とても愛しい。
こうやって、俺に
真っ直ぐぶつかってくるから
突き放せなくなってしまうんだ。



『・・・主導権、取るなよ』


『───っ、』


『先にイった方が負けな』と囁いて
強く締め上げてやると
ヴィルが微かに声を漏らした。
同時に、腹の中が熱くなるのを感じる。
『俺の勝ち』そう呟いて
またキスをする。好きだ。
この行為も。彼も。快楽も。
何もかも。全部が好きだ。
ぬるりと、強く舌を
舐められた瞬間に、俺も果てた。
身体はヴィルを離すまいと
搾り取るように、うねりながら
彼にしつこく絡みついてる。
『ほら、まだ止めないでってさ』
悦楽に浸るように、俺に微笑みかけるから
『変態が』と精一杯の悪態をつく。
漏れる吐息の合間に響く粘着質な音が
お湯のせいなのか
自分のせいなのかも判らず
ただ間違いなく卑猥な音を立てて
互いを貪り合う。
頭が、おかしくなってゆく。
一度じゃ足りないのは、いつものことで
またすぐに俺に欲情する彼が
最近、愛しくて仕方ないんだ。
今度は向き合って繋がる。
腰を曲げられて、何度かゆるゆると
前後に抜き差しされたかと思うと
またすぐに激しく奥を責められる。
『いっ・・・』さっきより
激しく出入りを繰り返して
俺の視界も真っ白になり始める。



『今日は三つもお願いが叶った』


『ッ・・・何、が?』


『君とデートしたし、手繋いだし、ぬるぬるできたし、幸せ』


『デートして、手ぇ、繋いだ、までで。止め・・・とけよ、変態っ』


『えー。でも、気持ち良くない? 俺、これ超好きだけど』


『──っの、ド変態野郎』


『口が悪いなあ。でも、その割には。今日の君、いつもより凄いよ。あったかくて、絡みついてくる』


『あっ・・・、んんっ、』


『イザヤって。普段、怖くて。綺麗だけど。俺に抱かれてる時は、すごく可愛いと思う。子猫みたいだ』


『っせぇ・・・、気色悪い事言うな』


『あんまり自覚無いみたいだけどさ、可愛いよ。訳わかんなくなって。俺に縋って。だから、もっと滅茶苦茶にしたくなるんだ。俺は、どっちのイザヤも大好きだよ。どんなイザヤでも、大好き』


『ハッ・・・ハァ、や、やめっ!! お前──』


一際激しく揺さぶられて痙攣する。
ヴィルの首に思いっきり爪を立てて
果てたが、射精は治まらず白濁に汚れる。
腰を持ち上げられて
前屈みになると額にキスされた。
肩で息をしながら、ズルリと
抜き出された感触に、また声を漏らす。


『ぐちゃぐちゃ。イヤらしいなあ』


『お前、が・・・っ』


『ホント、孕ませたいよ。君を抱く度にいつも思う。君が女の子だったら、とんでもない事になってたろうね』


『・・・恐ろしいことを言うな』


『うん。ね。このお願いは流石に叶わない。だから、その分いっぱいシよう? 俺はイザヤとずっと繋がってたい』


『・・・重たい奴だな』


売り言葉に買い言葉。
珍しくヴィルが俺の頭撫でた。
深く深く、唇を合わせて
互いを堪能し合う。
彼の手で盛りのついた雌猫さながらに
貪欲で淫乱な身体に
されてしまったような気がするけど
まあ。俺に何度でも欲情する
ヴィルを見てると、お互い様かと。


『ねえねえ、イザヤ。もう一回しよう? もう一回だけ、ね?』


『・・・殺す気か』



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ