偏愛フリークス

□排他的夢想回路
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たった一度だけ。悪魔を見たことがある。



『人間はこんなに簡単に死んでしまう』


『・・・、』


『隠れてるつもりかもしれないが。俺には見えるよ』


『パ、パ・・・』


『これは、ただの残骸だ。もう君の父親じゃない』


『・・・』


『悪いが。連れて行くよ。君には不必要だろうから』




─忘れなさい。全部─





真っ暗な夜の話だ。
割れた食器と。倒れた椅子。
血と。何だか悲しいものが
そこら中を埋め尽くしていた。
得体の知れない真っ黒な『何か』が
父親の亡骸を担いで。闇の中に消えた。
私は痣だらけの姿で隣人に発見されて
そのまま。施設に保護された。


(あれは、悪魔だ)




※※※※※※



鉛色の空を見てると。時折。
吸い込まれそうになる。
立ち入り禁止の屋上で
フェンスの向こうに夢を見る。
耳元には中身の無い歌を垂れ流して
虚ろに静かに街を見下ろして
思うことは。退屈と窮屈ばかり。


(死なないかな)


特に何をするつもりもなく
ただ。ただ。漠然と願う。
死にたがりなんてのは五万といる。
何ら特別じゃない。
少し悲観に酔ってるだけだ。
普通に飯を食って。寝て。起きて。
学校なり仕事なり、人間社会に踏み出して
反吐の出る社交性を前にすれば
それで悲しみを忘れる。
自分でない何かに化けて。
他人の望んだ姿を演じる。
くだらない、くだらないって
独りでいるから。酔いつぶれてる。



『サボリは感心しない』


『・・・あー』


『屋上に来るのも感心しない』


『すいません』


『授業は嫌いかい?』


『寧ろ好きな奴なんているんですかね』


『私は嫌いじゃなかったが』


『だから先生やってるの?』


『そう言う訳でもないけど』


『・・・ふーん』


『成宮さん』


『はい』


『あんまりね。屋上。来ちゃ駄目だよ。立ち入り禁止って書いてあるでしょう』


『だったら鍵。変えた方がいいと思います。ボロいから。ちょっといじったらすぐ開く。私じゃなくても簡単に来られますよ』


『なら、近々そうさせてもらうよ』


『そうですね』


『成宮さん』


『なんですか』


『あんまりね。死にそうな顔。しない方がいいよ。心配になる』



『顔は、どうしようもないです』



『君を見てると、ちょっと不安になる』


『大丈夫。別に先生に迷惑がかかるような事はしませんよ』


『そういう事。言ってるんじゃないんだけどな』




教師は私を気にかける。
私が重荷になるかどうかを計る。
心配とは名ばかりの保身だ。
人間は生きてるだけで、誰かの重荷になる。
ばかばかしい事この上ない。
誰にも迷惑かけずに。
誰の中にも残らずに。
死ねたらいいのにな。


(あの時、私も連れてってくれりゃあ良かったんだ)




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