偏愛フリークス

□Halloween Chaos Theater
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[ハリボテの防壁は既に「粉々」]




風習と言うのは時に考えものだ。
僕の生まれた村では
年に一度『夜の人』に生贄を捧げて
村の安寧を保っていた。
『夜の人』は。毎年、十月の終わりに
闇の中からやってきて
欲しいものを根刮ぎ持ってゆく。
金銀財宝であったり、家畜であったり
若い娘であったりと、要求は様々。
ある年の『収穫祭』の日に
僕は村の『生贄』にされた。
ただ。怖いと泣き叫んでいたと思う。
両親に縋ったが、その手は冷たく離された。
母の一言が、今も忘れられない。
『貴方は、英雄になるの』
在るべき未来は泥濘の底に沈み
夜の中に閉ざされた瞬間。
あらゆる人が『哀れだ』と。声を潜めた。





『なあ。ブリジットが何処に行ったか知らないか?』



『さあ。今日は見てない』



『困ったな。勉強の時間だと言うのに』



『教育はいいが。コンラート。毎度毎度逃げられてるようじゃ、きっとブリジットにとっては苦痛な事なんだろう。あまり親のエゴを押し付けてやるな。やさぐれてしまうよ、僕みたいに』



『お前、やさぐれてるのか? そうは見えないのだが』



『外面は良くしておかないとな。利口に振る舞ってるだけさ。世間体だよ。実際、心はギスギスしてる』



『うーん。お前がそう言うと。少し怖いな。忠告は素直に受け入れよう』



『まだ子供なんだ。勉強も遊びも大事な事さ。同じ分だけ教えてやれ。きっと心豊かに育つ』



『そうだな。少し力が入りすぎていたかもしれない。とりあえず私は。あの娘を見付ける事から始めないと』



『それなら。庭の隅に子供達の「ヒミツキチ」がある。隠れるにはきっと最適だろうな』



『それは初耳だ。行ってみるよ』




『わんぱくな子供を持つと、親は大変だな』



『まったくだ』




闇の中に佇む古城の一郭で
僕は、いつも行き交うモノと会話する。
頭の沢山ある犬。手が沢山あるヒト。
中身の無い甲冑。巨大な蛇。
ブリジットは銀色の猫。
父親のコンラートは大きな猫。
この親子とは、よく喋る。




『やあ、メア。こんな所にいたのか』



『ああ。グリム』



『ヴィクトルが呼んでるぞ。魔導書が見当たらないとか何だとか』



『用があるなら自分から来ればいいのにな』



『そう言わずに』



『部屋に呼び出す口実が欲しいんだろう。本当に過干渉なんだから』



『仕方ないさ。彼は君に執心してる』



『場合によるが。一方通行の愛ってものは、大抵が面倒臭いだけだよ』




『なら。君も彼を愛したら。丸く治まるんじゃないのか?』



『出来たら、とっくにそうしてる』



『まあ。君の境遇を考えたら、な。しかし、ほら。毒を食らわば皿までも、って言葉もあるだろ?』



『そうだね。けど。まだ悪足掻きしてるんだよ、僕も』




『そうか、じゃあ。仕方ない』




グリムには。肉体が無い。
透けていて目には見えないが
近くに来ると何となく気配で判る。
物腰は優しく、姿を見た事が無くても
恐怖を感じた事は一度もなかった。
異様な事に慣れてしまったのか
単に常識的感覚が麻痺してるのか
僕にとって。この城にいる怪物は
皆、家族のようなものだと思っていたから。







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