ロジパラEXT

□絶望ネガティブエッジ
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[それでも世界は廻り続ける]




空が青い。煙草がマズい。
太陽は燦々としてる。
大して好きでもねぇミュージシャンの
大して好きでもねぇ曲を聴きながら
屋上で昼寝する。鳥が二匹。
青い視界を遮って行った。
目を閉じて。息を吐く。



『・・・死んでるの?』



『生きてます』



聞き慣れたやる気の無い声に。
目を開く事もせず
『何すか』とやる気無く応える。
相手は隣に座ったようで
『いいヘッドホン』と
今日も人のヘッドホンにだけ
判りやすい興味を示す。




『あげませんよ』



『中古は要らない』



『何やってんすか。苧原さん』



『何って。別に何も。暇だから屋上に来たら、水鏡がいたから』



『暇って。もっとやることあるでしょう、アンタは』




『あるけど。サボってる訳じゃないから』



『あ、そ』



『うん、そう』




五分ぐらいの沈黙の後
ヤケに静かだと目を開けると
苧原は柵の向こうに立っていた。




『何してんだ、アンタ!?』



『この真下ってどんなかなって』



『馬鹿野郎!!上がれよ!!落ちたら死ぬぞ!?』



『大丈夫だよ。今日は死ぬ日じゃない』



『いいから上がれって!!』



血圧があがる。頭が痛くなる。
この男はどうしてこう、素っ頓狂なのか。
俺の怒鳴り声に酷くうんざりしたような顔をして
軽々と柵を乗り越えた。



『水鏡って結構神経質だよな』



『神経質とか鈍感とか、そーゆー話しじゃねぇだろ、これ。アンタ、万が一でも落ちたらどうすんだよ?故意でも事故でも。死ぬなら俺がいない日にしてくれよ』




『そこで「死ぬな」って言わない辺り。水鏡らしいな』




『言わねぇよ。どうせみんな確実に。俺より先に死ぬもん』




『・・・ああ、そうか』




『そ』



だから。余計なもんは極力見たくねぇ。
誰が死んだ、殺されたなんて聞けば
無駄にげんなりしてしまう。
そんなもんが溢れかえってる
テレビのニュースは嫌いだ。




『だから、屋上でボッチしてんの?』




『・・・ボッチ言うな』



『まあ。情報は最低限でいい日もあるね。雑踏の中に四六時中いると酔ってしまうから』




『そ。つう訳なんで。おやすみなさい。俺今から省エネ節電モード』



『ああ、俺と一緒じゃん』




以降。完全沈黙。
ふわりと風が抜けて行く。
頭の中には色々な蟠りが渦巻いてるが
今日は口から外に出す気にもならない。
何があったと言う訳でもない、
ただ。なんとなく。
屋上から見下ろした人混みに
悲しくなったんだ。
此処を行き交う群衆は
俺より先に人生を全うして
俺より先に死んでいくんだなと。
くだらないことを、ふと。
考えてしまったから。




『冴島も』



『あ?』



『おんなじようなもんだから』



『・・・ああ』



『ちょっと。虚しい』




苧原が裂いた沈黙に唖然とした。
そんな風に感情を
口にするような輩じゃなかったし
そもそも虚しいとか。悲しいとか。
感じる心がこの男にもあったのかと。
もっと機械的な奴だと思ってたから。
奴は柵に寄りかかって
遠くに見える煙突から流れ出る煙を
ぼんやりと見つめながら
缶のミルクティーを飲んでいた。



『・・・』



俺は。何一つ返さずに再び目を閉じる。
苧原の「虚しい」が「羨ましい」とも
聞いてとれたから
聞かなかった事にしてやったんだ。
奴の何かが変わりつつあるのだろうけど
多分きっとまだ。無自覚だろうから。
ああ。何だか面倒くせぇな。寝ようと思ったのに。
こうやって。他人について考えてる時が
一番面倒くせぇ。心ってやつは。


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