ロジパラEXT

□聖夜は混沌につき
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[聖夜の咆哮(episode:1)]




今年も。やってきました。
ツリーの季節です。
大食堂の片隅で彼は再び
その役目を担います。
懲りもせずに、今年こそは!と。



『ぎょーっぎょっぎょ!』


翻訳(ヒャッハー!! クリスマスだぜ!! 今年も出て来れるとは!! いや〜、真木のオッサンには感謝しなきゃだなー!! 今年こそお嫁さんを捕まえるぞ!!)




『───おや?ミスティルテインじゃないか。久し振り』



『ぎょ!?』



翻訳(トリックスター!!? な、なななな、何故ここに!?)




『何してるんだ、君。こんな所で電飾つけて。クリスマス・ツリーの真似事かい?』



『ぎょぎょぎょぎょぎょぎょ・・・・・っ、ぎょぎょぎょ、ぎょー・・・』




翻訳(え、あ、いや。あのー・・・昨年色々ありまして、何か真木さんに召喚されまして・・・このシーズンになりますと、クリスマスツリーのバイトをやらせていただいておりまして・・・)




『ふーん。真木に召喚された、ね。形はどうあれ時幻党は時々、強い悲しみに呼ばれると言うけど、もしかすると君にも多少罪悪の心はあったのかな?』




『ぎょぎょぎょ・・・』



翻訳(罪悪・・・。バルドル様ですか? ええ、確かにあの時のことは忘れられませんが・・・)




『反省してますって? アハハ。くだらないねえ。罪と呼ぶには余りにも些細な事じゃないか。まあ・・・君やヘズを騙したのは悪かったと思ってるよ? でも、仕方のない事だったのさ。それ以外に方法が無かったのだから。あれは君の悲劇じゃなく、俺がオーディンに向けた復讐だ。君に罪がある訳じゃない』




『ぎょぎょぎょー・・・』



翻訳(そうは言っても・・・)




『だが。自分の子供達が殺し合いの果てに死んでくなんて、最悪の気分だろうね。全ては無知な君のお陰さ。だけど。俺から全てを奪ったんだから、それぐらいしたって許されるよ。どこぞの世界には因果律と言うものがある。それに乗っ取った結果さ。いや、足りないぐらいだよね』




『ぎょー・・・』



翻訳(・・・、)



『・・・けど。良かったじゃないか。処分されなくて。君の枝から作る矢は、強靭で神殺しには最適なものだからね、君が生きてるなら都合がいいよ、俺は。誰かの役に立つって素敵なことだよ?』




『ぎょー・・・っ』




翻訳(勘弁してください、もうあんなに悲しいのは嫌です・・・世界で一番綺麗なものを殺してしまったから、みんなが悲しみに暮れた)




『そうだね、最も綺麗で、清らかで。愛すべきものを奪われた悲しみは、永遠に尽きる事なく続く地獄の始まりだ。でも、いいんだよ。それで。世界中が悲しみに暮れても。神や人が滅び去っても。痛みに打ちひしがれて。みんな同じだけ悲しめばいいのさ。そして、同じように。消えてゆけばいい。それで平等だろ?全部消えてしまったとしても。俺は僅かに残ったこの愛の残骸を糧に、幸福だと謳うよ』



『ぎょぎょぎょ、ぎょ』



翻訳(・・・・変わらないですね、あなたは。まだヴァルハラを、目に映る全てを憎んでる)



『憎悪は消えないよ。永遠だ。愛と等しくね』







『ふぉー!! 奥さん、見てください!! ツリーさんキラキラですよー!!』



『わー、本当だ、綺麗だね。真木さんがヤドリギに魔改造を施したって言うから一体何をしたのかと思えば・・・───って、隣にある電光掲示板は何!?』



『あー。翻訳って、書いてありますよ。何か翻訳してくれんじゃねぇっすか?』



『翻訳って・・・いや、確かに彼、ぎょーしか言わないけど』



『つうか。あれが、去年、先輩やらショボンちゃんやら襲ったっつう変態の木っすか。何か思ってたより綺麗なもんですね。俺もっとこう、ドラクエの人面樹みてぇな奴想像してたんだけど』



『吉崎君。それもう、神樹って言うか、ただのモンスターだよね』




『───あれ? 父様!!』




『やあ、ヨルムンちゃん。おはよう。なんだい、君達。朝から三人で遊んでるのかい?』



『はい!ヒゲさんが、クリスマスツリーを出したから見ておいでと教えてくれまして! 奥さんとキラキラさんと見にきたのですよ! ピカピカで綺麗ですねぇ!』



『そうかそうか。まあ。君が楽しそうなら俺はそれでいい』




『ぎょーぎょー?』



翻訳(チャオ!! ハニーズ!! 久し振りだね!! 元気にしてた?)




『あはは、本当だ!随時翻訳されるんだ? ハニーズだって、相変わらずチャラいなあ』




『そら、先輩やショボンちゃんだけじゃ飽き足らずに、愁水さんまで襲うような木ですからねぇ。人間だったら超軽い欲求不満の不男って感じなんじゃねぇっすか?』



『・・・吉崎君、地味に酷い事言うよね』



『─────ヨルムンを襲った?』



『え?』



『なに、君は。ヨルムンガンドを襲ったのかい? ミスティルテイン』



『ぎょーぎょーっ!!?』



翻訳(襲ったなんて滅相も!! なななな何かの間違いでござざざざざざ・・・・!!)




『違いますよ、父様。ツリーさんはお嫁さんを探していたらしくて、結婚してくださいと言われたからお断りしたのです』






────────メキッ






『どう言う事だ、貴様。ヤドリギよ』



『ぎょーぎょーぎょーぎょーぎょーぎょー!!!』



翻訳(いやああああっ!! 折れる、枝折れるぅううっ!!! 枝折らんといてー!! 頼むから枝だけは折らんといてー!!)



『なんすかね。北欧に伝わる神樹なのに翻訳が関西風に・・・』



『真木さん仕様なんだよ、きっと』







『父様、ダメです、そんなにメキメキしたら、ツリーさんが折れてしまいます!!』



『あはは、いやあ。ごめんごめん。ついカッとなって・・・でも大丈夫だよ、ヨルムンちゃん。もし駄目になったら俺がもっと上等なもの用意してあげるから』



『なら一安心です!』



『ぎょーぎょーぎょーぎょーぎょぎょぎょぎょぎょぎょ!!』



翻訳(全く以て一安心じゃねぇ!!)




『ショボンちゃんって結果主義なところあるよなぁ』




『まあ、下北沢さんは。ツリーがあればいいんだろうね、きっと』




『無邪気ってたまに残酷だよなぁ・・・』






彼の波乱に満ちた嫁捜しの季節は
初っぱなかは不穏な空気が
充満しておりますが
魔改造を施されたという
ミスティルテインは今年こそ
素敵なお嫁さんを見つけることが
出来るのでしょうか?


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