ロジパラEXT

□Lost Phase
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『とー。言う訳で。俺、暫く此処にいるから。よろしくね?』



『は?』



『いやー。そんな露骨に懸念な顔するなよ、メフィ。ちょっと調べたい事が出来ただけだ。長居するつもりはないから安心しなよ。用事が済んだら帰るから。 此処には俺の欲しい情報が揃っているし。ヨルムンちゃんもいる。だから少しだけ居座らせて貰おうかなって。一応、家主の許可は得ているからさ、俺について、君があーだのこーだの煩い事言わないでね? メフィ』



『煩い事?ふざけんじゃねぇぞ。テメェがしたこと棚に上げて何をのうのうとほざいてやがる? あ? 俺に、この俺に! この俺”様“にだ!! どれだけの迷惑をかけたと思ってやがんだ?! あぁ?! それで、そんな簡単に済むと思ってんのか?! 図々しいにも程があるぞ、テメェ!!』



『いや、冷静につっこませて貰うが。自分のした事を棚に上げてる事に関しては、お前も同じだぞ、イノセ』



『あー。煩いなあ。ギャンギャン煩いよメフィ。俺の行動をいちいち問うんじゃない。お前には関係ないだろう? これは俺と家主の間の話だ。 駿河と俺の間に成立した約束事なのさ。お前にそれを拒否する権利はないぞ。喚くな、メフィストフェレス』




『テメェ・・・』



『───なんて。まあまあ。そんなに怒らないで? 別に俺は。メフィを馬鹿にしてる訳じゃないんだよ? 俺はね。君以上に嘘吐きだし、何事も面白半分だし、決まり事を守るような輩でもないけど、家族に関する約束事だけはねぇ。死んだって守るんだよ、独身貴族の君と違ってね?』




『・・・お前。馬鹿にしてるだろ』




『いやいや滅相もない。ただ、俺はさ。愛する娘の記憶と眼を取り戻してあげなきゃならないんだよ。子供を守るのは親の勤めだからね。で、記憶に関してはさ。君がいる訳だけど。君にお願いしちゃうとさ。きっとヨルムンちゃんが苦しむだろ? それに後々面倒だから。俺は自分で御子柴敬士とやらを見つけてぶっ殺そうと思ってるんだ。それこそタダじゃあ済まないよ。俺の家族に何をしたのか判って貰わなきゃならないからね。その為の情報が此処にはある。利用できるものがある。だったら使うのは当然だろう? 』




『・・・・・・』




『だってほら、白は当てにならないし。それに、駿河が。フェンリル君の足枷を壊してくれるなら、別に殺す理由もない。邪魔にもならない。ヨルムンちゃんがお気に入りだって言う此処を俺が破壊する理由はない訳だよ。今はね』




『おい、ロキ。テメェ、白と繋がってんのか?』




『さあ? 当てにならないものの事を断言は出来ないよ。繋がってると言うより。たまに顔を合わせる仕事仲間?程度にね。 君、彼を探してるんだろ? でも彼は気紛れで多忙でロクデナシだから。今はどうだか知らないよ。先日までは、いたけどね。アスガルドに』




『・・・、道理で全く掴めねえ訳だ。九層世界(ユグドラシル)にまで踏み込んでんのか、あの糞野郎は。どんどん遠のいてくな、人間から』




『此処のアーカイブの一部を、持ち出してるようで。俺と似たような事してるけど。上手く利用しているね。流石に有能だな。人間だったとは思えないほどに』




『───アレはもう。とっくにバケモンだ。逃れよう無くな』




『ロキ・・・一つお聞きしたいのですが。貴男、ラグナロクはどうするつもりなのですか?』




『んー? そうだねぇ。俺は。きっとヴァルハラを許せないだろうね。諦め半分に。アイツの世界なんぞ、何もかも壊れてしまえばいいとも思ってるよ。けど。俺はそれ以上に家族を愛してるんだ。それを上回る感情なんて俺の中にない。だから今は、目を瞑るよ。今は、ね』



『ロキ・・・』



『でもまあ。少しだけ・・・ほんの少しだけ。陰りが晴れたのかもしれないなあ。闇の中で小さな光が見えたんだよ。君達のお陰でね。だから、今じゃなくてもいい。こんな俺にも微かな希望が見える世界なら。生かすだけの余地も生まれる。希望があると無いとでは生きる動機も変わってくるだろう? それに関しては本当に。感謝しているんだよ、君達に』




『・・・・、そう。ですか』




『だから嫌なんだよ。うちの連中は甘ったるくて反吐が出る。昨日の敵は今日の、なんて。到底、頭イカレてるとしか思えねぇぜ。犬っころと言いよ。何でもかんでも拾うんじゃねぇよ、愁水』



『・・・、いいじゃないか。マイナス因子を減らせるなら、誰しも笑っていられる方が単純に。それが許されない時の方が多いのだから。もし少しでも。救いの余地があるなら、私は迷わず手を伸ばしたいと思うんだが───犬神君は、どう思う?』




『私・・・ですか? 』




『ロキを此処に置くのは危険か? 彼のしたことは君にとっての百害だ。だが、君は彼を生かした。その行いを罰する権利があるとすれば。君だろう。君の決定に私は従おうと思う』



『・・・』



『駿河は最終決定を君に委ねるとね。だから、一応、なのさ。君の返事待ちだよ。まあ。君が嫌だと言うなら、それはそれで。さっさと退散して自分で何とかするけどね。駿河との約束に、君に従うってのも含まれてるから。俺はさ。君が嫌いだから。君にどう思われても構わないけど。きっと俺のした事を客観的に見た時、俺だったら絶対に許さないと思うんだ。それが正解だと思う。だが。君が、あの時。生きて、父親として、ヨルムンガンドに寄り添えと言ってくれたのは・・・正直、嬉しかったんだけどね』




『・・・・』




『調子のいい奴だな、お前。ほんとムカつくわ』




『───本当は』




『ん?』




『貴男を葬らなければならない。私にとって百害であるより、世界にとって有害であるものなのだから。私は自分より秩序を優先せねばならない。全能神が害悪と判断した危険分子は全て抹消すべきなのです。なのに、それを最初に破ったのは、他ならぬ私です。ヨルムンガンドに恋をした』



『・・・ゲフンゲフン、やべぇ、キツネ君の超ダイレクトな告白に叔父むせた!! 米が鼻に回ったゲフンゲフン』



『叔父、汚いですよ!! 空気を読んで!!』





『・・・そして。貴男を生かした。私の選択はいずれも全能神への反乱です。規律違反の果てには時幻党に寝返ってる。立派な裏切り者ですよ。地位もプライドも全部捨てて。此処にいる事を選んだ。秩序を守るべき者が、一度でも個人的な感情を優先した。そんな私に今更、誰の何を裁けますか?』




『・・・』




『自我に従い選ぶなら。私は、ただヨルムンガンドに笑っていてほしいのです。彼女が笑っていてくれるなら、何だってする。貴男と同じですよ、ロキ。それは、枯鳥やヘカテーを無くした事よりも、メフィストフェレスと契約を交わした事よりも。悲嘆をずっと上回る感情です。身勝手極まりなく、きっと、誰も納得がいかない。けれど。それが唯一、私の願いです』




『・・・あはは。寛大だねぇ。君。ヨルムンちゃんも厄介なのに好かれたもんだよ・・・。そうか。じゃあ君は死神失格だね。秩序の守り手としての威厳を捨てるのか。プライドの塊みたいな君が。本当に悔しいだろ?────ごめんね。ありがとう、キツネくん』




『・・・、私怨は消える事もありませんが。全ては、ヨルムンガンドの為に───』




あらゆる理屈も因縁も上回り
選んだ答えは、ただ一つの愛情。
報われる事もなく、盲信し続ける者。
それに依存し、離れられない者。
愛と憎悪を履き違え失った者。
決して他人に理解出来るものではなく
ただ深くに根付き、心を突き動かす。
どんな不遇も不都合も全てを上回り
心に残った小さな残骸を
“愛”だと言うのなら
心の冷え切った彼らにとって
その熱は充分過ぎる程の
暖かさを湛えたものだった。



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