ロジパラEXT

□魔女の感慨
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[例えば春の芽吹きと共に(C)]




『ああ。いつ来ても暖かいねぇ・・・この部屋は。少し眠たくなるよ』



『春の日差しとは、そう言うものさ。何やら随分と疲れてるようだが、何があった?その傷はどうしたんだ?』



『タナトスと、ちょっとね。それは解決したからいい。ただ、ヨルムンガンドに心配かけたくないから少しばかり、此処で休ませてくれないか?傷はそんなに深くないから。ほんの少し眠れば修復する。でも、あの子は突然、俺の部屋にやって来るから。こんな姿、万が一にでも見られたら、また・・・』


『娘に余計な心配はかけたくないと?そうか。なら、少し眠ったらいい。私は構わないよ。匿おうじゃないか。それに、この部屋のソファーは特に日当たりが良いから、この時期は暖かくてよく眠れるんだよ。休むにはもってこいだ』



『ありがとう。感謝するよ』



『ああ。気にするな』



『───不思議だな。俺。此処に来るまで暫く眠っていなかったんだよ。サリエルの影響もあったし、闇に呑まれてしまうのが怖くて眠れなかったんだ。なのに、此処に来てから。俺は少し緩くなってしまったのかな。眠れるようになった』



『ああ。それは多分ね。人がいるからだよ。特に、娘が。目の届く所に家族がいるから、安心するんじゃないか?』



『ああ。そうだね。それもあるんだろうな。まあ、その分、自分の家では眠れなくなってしまったけど。困ったものだね』




『仕方ないさ。脳裏に悪夢が染み付いてしまってるんだ。家が悪夢の起源になってしまったんだよ』



『ああ。悲しいことだがね。なかなか、祓えないものだよ。聖域と悪夢が同列だなんて』



『・・・心と言うのは理屈を鵜呑みにしないものだから。仕方ないさ』




『確かにそうだね。だから。君は。女性は。強いなって思う。失っても、また同等か、或いはそれ以上を築ける。俺には真似が出来ないから、羨ましく思うよ』



『そう容易では無いさ。だが、己の立ち位置を知っている。忘れる事は出来ないけれど私が自棄になれば困る者が沢山いる。少なくとも此処にはね。だから、私は物怖じしない。出来ない。常に最善を考え、守れるようでなければならない。そう思っているよ。なあ、ロキ。お前も。あまり自分を責めるなよ。もしも、お前が崩れてしまったら子供達は本当に絶望してしまうから』



『ああ。大丈夫だよ。あの子達の前では誰よりも強くあるよう心掛けてる。随分とみっともない所を沢山見せてしまったからね。だから、もう二度と家族の前で、弱音を吐く訳にはいかないんだよ、俺も』



『ならいい。私と同じだね。それは信念でもあるし。きっと愚か者の底意地でもある。お前は強いと思うよ、充分に』



『ありがとう。でも、少しね。こんな日差しの中では眠たくもなるなって話さ』



『そうだな。今日は皆、出払っていて静かだ。お前の寝首をかくような奴もいない。私は読書に耽るだけだし。お前も、そこで眠るなり、出掛けるなり好きにしたらいい。私は、お前に。干渉しないよ』



『ああ。君は優しいな、駿河』



『時には。うたた寝ぐらいしたっていいさ。私にならば弱音を吐いてもいい。お前が私と同じ傷を抱えていて、課せられた不条理と戦ってる事ぐらいは知っているつもりだからね。同じ場所にいるんだ。お前を今更、咎める理由なんてないさ───おやすみ、ロキ。いい夢を』



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