猫は煉獄で夢を見る

□零の世界にて
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─memory×8─




『この、ゴミ野郎!! 偵察機ぶっ壊しただ!? テメェ勝手に外出たのか、横島!!』




『も、申し訳ありません!! ですが、班長・・・アレは、この零世界の環境には対応できないようなので────』



『当たり前だ!! 異空間だぞ?! 普通の機械が使える訳ねぇだろ!! 何だと思ってんだハゲ!! ノアの整備士が何ふざけた事言ってんだよ!? だから、俺がいるんだろ!? あ!? 違うか!? ヒラが勝手な判断で貴重な機器ぶっ壊していいと思ってんのか!? テメェは班長か? 整備主任か? あぁ!?』




『い、いえ・・・す、すみません・・・』




何時ぐらいだったかな。時計は見なかった。
どうせ、表示されたその時間は
正しくないだろうし。
しきりに時空間を移動すれば
時間なんてものには
なんの意味もないと思えるようになる。
明るければ朝。暗いなら夜。
それぐらいでいいと思う。




『───使えねぇ部下は、いらねぇ』




『そ、そんな!!』




『異空間だ。どうなるのか。何が潜んでいるのかも判らない、そんな場所で勝手な真似をするってのはな。集団においては危険極まりないマイナス因子でしかない。乗員の命を預かってる側として、信頼が置けないものに、一体何を任せられるよ?』




『・・・・っ』




『偵察機はいいさ。機械は壊れるもんだ。貴重だが、時間さえかければ、別に取り返しはつく。その為の整備班だ。俺なら、また直せる。だが、お前のその無責任な行動は、性格から来るものだろう、横島。自分を省みずに、身勝手な事をする奴は、いつか必ず。みんなの足を引っ張る』




『・・・、』




『そんな部下なら、いらないよ』




ファルターが真面目に怒ってる所を見たのは
久しぶりだった気がする。
ファルターも、常にオカマな訳じゃない。
たまには男に戻ってる。
僕はと言えば、少し暇だったから
整備班の部屋でゴロゴロと
寝っ転がって遊んでいたら
突然、怒鳴り声がしたから
ビックリして物陰に隠れた。
大きな声や物音って心臓に悪い。
僕の背中の毛も少しばかり
逆立ってたかもしれない。
どうやら、仕事が出来ないで有名な
ヨコシマが、また何かやらかして
遂には整備班から除籍にされたらしい。
完全にキレてるファルターを背に
彼は半泣きで部屋を飛び出して行った。




『───厳しいですね、班長。横島、泣いてましたよー』



『・・・仕方ないじゃないの。零世界なんて未踏の地で、勝手なことされちゃ、私だって守りきれないわ。部下は大切なのよ。ノアのみんなは私にとっては身内みたいなものだから。私は常に最善を尽くさなければいけないの』



『堪忍袋の何とやら、ですか? 何だかんだって班長、いつも横島を許してましたもんねー?』



『・・・偵察兵の真似事なんてするからよ。観測出来ない世界を、甘く見てはいけないわ』



『ごもっとも』



『貴方も気をつけなさいよ、猫屋。勝手な真似だけは。しないで頂戴ね?』



『んにゃー。判ってますよー、班長』





僕は猫屋が嫌いだ。
いっつもヘラヘラ笑ってるけど
なんとなく感じが悪い。
子供のくせに、何処かこう、
傲慢な気がしてならない。
今だって顔とセリフが合ってない。
ファルターは真剣な顔をしてるけど
猫屋は、ただヘラヘラしてる。
ヘラヘラしながら自分は
横島とは違うってアピールしてる。




『お? こんな所にー。猫様ハッケーン!』



『にゃ!!』



『何見てたの〜? 猫様』




『ニャーッ!!』




僕を機材の隙間から引っ張り出して
首根っこを掴んだまま
ヘラヘラ顔を近付けてきた猫屋に
何だか知らないが無性に腹が立って
僕は思いっきり猫手を振り下ろした。




『いっ、てえええええっ!!』



『ニャーッ』




ざまあみやがれ。鼻を引っ掻いてやった。
猫屋は僕から手を離して
その場に屈み込んだ。
自業自得だ。隙間に隠れてる猫を
引きずり出すなんて最低の行為だ。
猫を粗末に扱う奴には天誅をくれてやる。
僕は、そのまま、ヨコシマと同じように
整備班の部屋を飛び出した。
いや、別に猫屋が怖かったんじゃないよ?
神妙な面持ちのファルターに
気を使ったんだ。そう。
これは一種の気遣いだ。
僕とヨコシマの圧倒的な差は
空気が読めるか読めないかの
違いだと思う。うん。




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