猫は煉獄で夢を見る

□零の世界にて
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─memory×5─





『あー、タマ、あんまりソレ食べちゃ駄目だよ? また艦長に怒られるよ』



『にゃん』



『にゃんじゃなくてー!』




フライハイトも、ラグも
長ったらしい話を始めたから
僕はまた草を噛みに来た。
この歯ごたえが何とも癖になる。
暫く噛んでたら、フェリスがやってきて
僕の背中をツンツンとつついた。




『タマってばー』



『にゃーん』



フェリスは僕をタマと呼ぶが
僕はタマじゃないし
ましてや、毛玉でもない。
ブレインシュタインと言う
立派な名前がある。
ブレインシュタイン=シュタイナー
此処では誰もそう、呼んでくれないけど。
大昔に一度だけ、そう呼ばれたきり。
誰に呼ばれたかは覚えてない。
猫の記憶容量なんてそんなもんだ。




『だから、駄目だってば。無くなっちゃうよ、草』



『にゃ!』



フェリスに抱きかかえられ
僕は噛みかけの草を残したまま
管制室を後にした。
ラグもフライハイトも話に夢中で
此方をチラリと振り向く事もなかった。
まったく、薄情な連中だな。
確かに僕は。しつこいのが嫌いだが
知らん顔されるのはもっと嫌いなのだ。
猫は我が儘な生き物だって言うけど
それに関しては正しいと思う。






────────────────・・・
────────────────・・・






『ねぇ、フェリス。ラグを知らない?』



『ラグなら管制室にいたよ。フライハイトさんと話してた』



『・・・あら。フライハイト ? やだわ、いけ好かない』




フェリスの部屋は、管制室からすぐだ。
管制室の前の廊下をあっちから来て
左に曲がればいい。
あっちってどっちとか
面倒くさい事を考えてはいけない。
あっちは、あっちだ。
管制室から近い訳だから休憩所も近い。
きっと立地はいいんだろう 。
でも、そのせいで。彼女の部屋の前は
常に人通りが多いから
僕はあんまり好きじゃない。
不満タラタラ。抱きかかえられた手を
少しかじってみたけどフェリスは
手を離してくれなかった。
しぶとい、しぶといぞフェリス。
そうこうしてる内に
整備士のファルターが現れて
彼女に話し掛けた。




『ファルターって、どうしてフライハイトさんが嫌いなの?』



『あの男、何だか胡散臭いわ』



『えー? なんで? 優しいし、紳士じゃない?』



『整備士の勘よ、勘』



『・・・仮にも上司に胡散臭いって・・・。言い掛かりじゃない、それ』



ファルターは『まあ、いいわ』と
肩を竦めて管制室の方に歩いて行った。
ラグにどんな用事があるんだろう?
フェリスは、その後ろ姿を見つめながら
僕の頭に顔をうずめた。
何とも言い難い複雑な表情で。




『ファルターって、背高いし。オカマじゃなきゃ、格好良いのにねぇ』



『にゃ』




無い物ねだりと言うやつだろうか。
フェリスは、よく言う。
ファルターがオカマじゃなければ
好きになってたかもしれない、と。
それぐらい『イイ男』らしい。
まあ、猫には、よく判らないが。
しかし。現実的には
オカマなのだから仕方ない。
ファルターはオカマ。どう足掻いたって
それが事実なのだ────。





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