猫は煉獄で夢を見る
□零の世界にて
4ページ/26ページ
─memorey×3─
『あはは。ご機嫌斜めですね、ソレスタ士官』
『ああ。若干ね』
流石のラグも機嫌が悪い。
総監が何回呼び出しても来ないものだから
しまいにはシュバルツにとっ捕まって
管制室(ここ)まで無理矢理
引っ張って来られた。
ラグったら廊下で整備班長の
フライハイトと仲良く話していたんだけど
それがシュバルツの怒りを買ったらしくて
思いっきり、首ねっこを掴まれて
そのままズルズルと
引きずられて、此処に来た。
一部始終見ていたフライハイトと僕は
その様を呑気に笑っていたけど。
ラグは心底うんざりした顔で
シュバルツを睨み付けてた。
『まあ。そう怖い顔しないで。ほら。みんなソレスタ士官にお願いがあるみたいですよ』
『お前、面白がってんだろ。フライハイト』
『まさか。ねえ? この緊急事態にそんな?』
『にゃー』
『絶対面白がってる・・・』
『ソレスタ士官。ノアが全コントロールを拒否している。自立思考に何か問題が生じたようだ。一体何を考えているのかを知りたい』
『そんなの。わざわざ俺を呼ぶ程の話じゃねえだろ。総監殿は何してんだよ。何の為の総監だっての』
『・・・出来ればやっているよ。ラグ』
『総監からのアクセスさえも受け付けないから緊急事態なのだ』
『だっせぇ。つまりフられちゃった訳だな、総監殿。だから爺さんはダメなんだって』
『───口を慎め! ラグ=ソレスタ!!』
『いや、いいんだよ、シュバルツ君。ラグは旧くからの友人なんでね。彼の口が悪いのは今更始まったことじゃない』
『しかし・・・』
『───ったく仕方ねえな。結局、緊急事態を回避するのは昔からいっつも俺じゃねえか。シュバルツも。何の為の特務隊だ。自分達でどうにも出来ない事を俺に押しつけんなよ。肩書きばっか立派でも脳が無いんじゃただの役立たずだぜ。お前ら全員役職返上しろ、バカ共が』
『貴様、言わせておけば───!!』
『あはは、ソレスタ士官の言うことにいちいちキレていたら身が保ちませんよ、シュバルツ君』
『フライハイト・・・』
『それに。彼の言ってる事は間違ってない』
『・・・・、』
シュバルツはラグが近くにいると
子供みたいになる。
すぐ怒るし、すぐ喚く。
安い挑発でぶちぎれる。
爺さん達と話す時は
冷徹な顔してるのに
ラグの前じゃまるで別人だ。
判りやすいぐらい顔に出る。
変な奴だなって思う。
『いいか。覚えとけ。ご機嫌取りでも飴と鞭が必要なんだ。特に我儘言うガキにはな、躾も必要だろ? 人間はキレると怖いんだぜ、って事をしっかり叩き込まねぇとな』
ラグは操縦用スコープを装着すると
両手で管制塔をカチャカチャやりだした。
何をやってんだか
速すぎてよく判らなかったけど
僕はとりあえずラグの頭に乗っかった。
ここからならよく見える。
僕はラグの指先を目で追った。
よく見た所で何してんだかさっぱりだけど
本能的に素早く動くものが大好きだ。
『意思の疎通がままならないから。こうなるんだよ、馬鹿め。互いに聞く耳を持ってりゃ不満に生じる摩擦だって多少は緩和されんだろ』
『にゃー』
モニターの赤い画面いっぱいに
警告文と訳の判らない文字が表示されて
頭に響くぐらい大きなサイレンが鳴った。
ラグは暫くカタカタしてたけど
途中でニヤリと笑って手を止めた。
『───ほらよ。連れてきてやったぜ。ノアちゃん』
【───アーカイブ再起動、認証、プログラム修正───ラグ=ソレスタ操縦士カラノアクセスヲ───確認】
『・・・ソレスタ、お前、一体何をしたんだ?』
『お前らが望んだ事だよ』
【マスター登録強制リセット───艦長アルバート=マクレガーカラ──ラグ=ソレスタニ変更シマシタ。情報変更完了──全システム手動──平常運行ニ切リ替エマス】
『あはは。やっちゃったね、ソレスタ士官。艦長を自分に書き換えちゃったんだ?』
『総監殿が嫌いだってんだから仕方ねえだろ。何やらかしたんだか知らねえが総監に対しての反抗だぜ、これは』
『・・・私に?』
『細かい事までは教えてくれなかったが。なんか怒ってんだよ、ノアちゃん』
【ラグ=ソレスタ操縦士───】
『ん?』
【────・・・】
『大丈夫だ。心配なさんな。俺は優しいんだよ、こう見えて』
【・・・感謝シマス】
.