長編
□アヒルと不運とプロ忍と
1ページ/3ページ
「んっ…んん…はぁ……ん…ぁっ」
閉め切られた薄暗い部屋の中、微かに響く甘い喘ぎ…
同室者は忍務で居らず…
その喘ぎを聞く者は自身以外にないというのに、声が漏れる事を恐れるかのようにキツく唇を噛み締め、独り快楽を追う
閉ざした瞼に思い描くのは、忍務で出掛けている同室者の姿…
「…はっ…んぅ…」
以前からその行為は苦手であったが、最近は独りでスル事が無くなっていた為に更に苦手になっていた…
浅ましく身を捩るが、その身になかなか絶頂は訪れず…目には涙さえ浮かんでいる
「…留さんの…嘘…つ…きぃ…全…然…イケな…い…じゃ…ないかぁ…」
快感に貪欲になった躰を持て余し、諦めたようにその行為を中断し天井を見上げて涙声でそう呟いた
(声や仕草や表情なんか思い浮かべても…本物の留さんじゃないと、やっぱりイケないよ……)
「あ〜ぁ…早く帰って来ないかなぁ…」
「ただいま」
「!!!?」
独り、ポツリと漏らした言葉に有り得ない言葉が返って来た事に驚き、部屋を見渡す
「伊作君は独りでスルの苦手なんだね〜」
姿は見えず、笑みを含んだ声のみ…
事務の小松田に見つからず、此処まで忍び込んで来られのは唯一人…
溜め息混じりにその声の人物に嫌みをぶつける…
「人の下半身事情を盗み見るなんて、とても良いご趣味ですね…粉もんさん」
「酷いな…来てみたら真っ最中だったから出るタイミングを失っただけだよ………それに、私の名前は昆奈門だよ…わざと間違えてるでしょ?」
「!?…いったいいつからっ」
「んー最初から?」
「!!?」
真っ赤になって口をパクパクさせる伊作に向かって笑顔を返す
「き、来てたなら声くらいかけて下さいよ!!」
更に赤くなった伊作を見、笑みが深まる…
しかし直ぐに真剣な表情になり、少しずつ、にじり寄りながら距離を詰めて…
背中が冷たい壁に当たる…
逃げ場が無くなったことを確認し、未だ事態を把握出来ていない伊作の耳元で囁く…
「…まだイってないみたいだったけど…」
“手伝ってあげようか…?”
「!!?な、何言って…」
「だって、満足してないと辛いでしょ?」
“心も躰も…”
何もかも見透かしているかのような甘い囁き
首筋を擽る吐息…
触れてくる指先…