長編

□卒業試験
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 季節が巡り、卒業が近くなってきたこの頃。

 委員会での引き継ぎを終えた最上級生は、学ぶ事も多く今迄の様に“手伝い”と称して委員会に顔を出す余裕も無くなってきていた。

 最近では学園での行事も無く、下級生達とは滅多に顔を合わす事は無い。
そうなると自然に六年生だけで集まる様になった。
授業が終わると図書室だったり、誰かの部屋だったり。
場所は様々だが集まって勉強をし、下級生の話や卒業してからの就職先の話をする。

その中でも話題に上がる機会が多いのは、やはり近々控えている“卒業試験”の事。

 試験内容は門外不出。当日に教えられ、そのまま開始される。という事は聞いていたが試験日は知らされていない…
そして、毎年何故か合格者が一名のみ。

嘗ての上級生達はとても優秀な人物ばかりだったのに…と不思議に思う反面、不合格者はどうなったのか…と少しの不安が覗く。

 忙しいとは言え、そんな穏やかな毎日。

こんな日々がずっと続くものだと、試験にも全員が合格し、一緒に卒業出来る筈。と不安になっては笑い励まし合っていた。


卒業が間近に迫ったある晩、遂に卒業試験が行われると皆が寝静まった頃に知らされた…



それぞれが不安な面持ちで集まるグラウンド。
暗闇に慣れ始めた目に映るのは何時もからは想像出来ない程硬い表情の先生達の顔。

「これより六年の合同卒業試験を始める。」

ピンと張り詰める空気。
学園長の口から静かにゆっくりと発せられる言葉に耳を傾ける。
その声に何時もの暖かさは無い。
それが不安を更に掻き立てる

「試験内容は六年生全員での生き残り合戦じゃ。今迄学んできた様々な事を発揮して欲しい。」

学園長の発した“生き残り”という意味を確実に理解している者は誰一人居らず。
今迄何度も行ってきた手合わせと何の変わりもないと思い少し安心する…

手酷い怪我も時間があれば治る。

そんな甘い考え。

穏やかな毎日に、卒業後はプロの忍びとして活動するという意識が抜け落ちていたのだ…

「学園長、生き残り合戦というと勝ち残って行った者同士が戦うという事ですか?」

詳しいルールを聞こうと少し和らいだ表情の仙蔵が口を開く。
先生方は、それに対し表情を少しも動かさない。
どころか益々頑なっていく。

何かがおかしい。

そう感じるのと、学園長が質問に答えたのはほぼ同時。
「生き残りとは勝ち残りという意味では無い。勝った者同士が戦うという点は同じだが…」

 そこで少し言葉をきり、息を吐く。
言い難い何かを搾り出す様に続く。

「今から六年生全員でルール無用の殺し合いをしてもらう。期間は明日の朝、陽が登る頃まで…生還者は一人のみ。生還者が居ない場合、もしくは複数居る場合、不合格とする。再試験は認められておらん。」

 何か質問は無いか?と温度を感じさせない声が六年生の耳に届く。

 予想もしていなかった卒業試験の内容に、声どころか身動き一つ取れず試験開始の合図が鳴り響く。

 忍者の卵として今迄培ってきた状況判断力か、生物としての生存本能か…
一斉に四方へと散り、暗闇へと同化していく。


 忍者の卵からプロ忍への道を今、それぞれに歩き始めた。
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