短編
□土用の丑の日
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「みんなーちょっと集まってー!!」
暑さのピークを迎えた昼過ぎ。
不運委員会ならぬ保健委員会委員長、善法寺伊作の声に各自作業の手を止め部屋の中央へと集まった。
あまり見ない真剣な表情に嫌な予感がする。
暫くの沈黙。
開け放った戸は時折、生暖かい風と生徒達の元気な声を運んで来るのみで涼しいとは決して言えない。
「あの〜先輩、何があったんですか?」
嫌な予感に耐えられず、早く話を切り出して欲しいと声をかける。
「うん。それがね…」
真剣な表情はそのままに僅かに身を乗り出す。
つられて下級生達も身を乗り出し、緊張した面持ちでゴクリと喉を鳴らした。
次の瞬間…
「今日は土用の丑の日なんだけど、保健委員会の分の鰻を買い忘れちゃって〜慌てて買いに行ったんだけど何処も売り切れてたんだ。」
頭の後ろに手をやりヘラリと笑う。
緊迫した雰囲気は一瞬で無くなり、“そんな事か”と下級生達は胸を撫で下ろした。
「と、言う訳で鰻を川に取りに行くよ〜!!」
まだ話が続いていた事に表情が固まる。
しかもその提案。常から不運な保健委員達が更に不運な目に遭う事は分かり切っている。
「べ、別にそこまでしな
くても!!」
「そうですよ!!鰻が無いなら他の物で良いです!!」
「なんならご飯にタレかけただけでも良いですよ!!」
必死に押し留めようとする三人に一年生二人も必死に頷いて見せる。
…が。
「そんな馬鹿な!!いいかい、丑の日は“う”の付く物を食べて精をつける日なんだよ!!」
「“う”し」
「“う”ま」
「“う”さぎ」
「“う”めぼし」
「う、う、う…“う”〇こ!!」
「「「「………………」」」」
「………」
「「「「………………」」」」
「……ブロークンハートッ!!硝子細工の様に繊細な私の心が砕け散った!!そんな蔑んだ目で見ないでぇぇ…」
「硝子細工の様に繊細な心を持った人は〜」
「“う〇こ”なんて」
「「言わないと思いま〜す!!」」
顔を覆って泣き真似をし始めた三反田に突き刺さる視線と一年生の言葉。
周りでは遠巻きに尤もだと頷いている。
「だって、“う”から始まる物思い付かなかったんだもん!!」
「もんってキモい…」
「思い付かなかったからって言わないよな。」
「もしかして…食べてるの?」
「ぐぁっ…って食べないから!!」
騒然となったその場に下級生達が本
来の目的を忘れかけた頃、パンパンと小気味良い音が響き皆の目線を集めた。
自然と静かになった保健室。
輪の中で一際ニッコリ笑う委員長。
綺麗に笑んでいるのに下がったように感じる室温と禍々しい空気。
「別に三反田がう〇こを食べてようが何だろうがそんな事は良いんだよ…それより大事なのは今日の鰻を確保する事。さぁ、行こうか?」
「「「「は、はぁぁぁいぃぃぃ」」」」