〜表〜

□さよならは言いたくなくて
1ページ/2ページ


『ふぅ・・・寿スポーツマンに戻ったんだ』
「あぁ、この前会ったら髪が短かったぜ」
『元々真面目ちゃんだからねぇ・・・』

鉄男のバイクの後ろに乗りながらタバコを吹かし空を眺める

寿とは鉄男繋がりで仲良くなった

あたしの部屋に鉄男が連れてきたのがきっかけだった

他の子はあたしがストックしてたものや彼らが持ってきた酒なり、タバコなり好きに飲んだり吸ったりしていた

なのに彼だけは少しお酒を飲む程度でタバコは全く吸わなかった

そんな寿に興味が沸いてちょっかいかけるようになってどんどん惹かれていった


『ねぇ寿』
「なんだよ、タバコならいらねぇーよ」
『違うわよ、馬鹿ね』
「じゃあなんだよ」
『ふぅーあたしの男になってよ』

煙を吐きながらダメもとで誘い反応がないので冗談よと言おうとするが


「あぁ、いいぜ。付き合ってやっても」

思わずタバコを落としそうになるけれど平常心を保ちよろしくと口づけを交わした

あの時は本当に嬉しかったし最高な気分だった


それからも不良なくせして変に硬派で真面目な寿がすごく好きだった



「ほらついたぜ」
『すぐ戻ってくるから適当に待ってて』
「最後位じっくり見てこいよ」
『馬鹿じゃないの?いいわよ、そんなに』

鉄男のバイクから降りてある場所へ向う

バスケットの大会が行われている会場である

こんな真昼間に出歩くなんて久しぶりだと思いつつ完全に場違いなあたしは色んな人に見られる

会場へ入れば熱気がすごく化粧が落ちてしまいそうだった


「「三っちゃあああああああああん!!」」

どこか聞き覚えのある声が聞こえそちらを向くと徳ちゃんがいた

徳ちゃんもこちらに気づいたようで「◯◯ちゃん!」と言うとあたしの方を向いてこっちにおいでよと誘われる

言われた通りにそちらに行き席に座らさせてもらう


「◯◯ちゃん今までどこにいたんだよ、部屋行ってもいねーし」
『あたし店で寝泊まりしてたのよ、だから部屋にはしばらく行けてなかったの』

寿がバスケ部に戻ったという話を徳ちゃんから聞いてからあたしは寿を避けてきた

だから部屋にも帰らず、電話にも出なかった、お互いのためにも会わない方がいい

あたしなんかとつるんでたら折角のチャンスをつぶしちゃうって思った


「そうなのか・・・あっ三っちゃんに叫ぼうか?」
『いや、いいの。会うつもりないから』
「◯◯ちゃん・・・」

一度だけ更生というか本来の寿が見たくて今日ここにあたしは来た

徳ちゃんに寿どれと聞き「14番だよ」と教えてもらいそちらを見つめる

眩しいという理由でつけてきたサングラスを外し、寿の姿を目に焼き付ける


『すごい活き活きしてんじゃない、あいつ』
「◯◯ちゃん・・・三っちゃんすごいうまいんだよ、ほら」

徳ちゃんの声と同時に寿がシュートを決める

ど素人のあたしでもわかるとてもきれいだ


『寿は幸せみたいね』

独り言を呟けば周りに「え?」と言われるが何でもないと返す

しばらく見ていると寿がフラフラしているのがわかる

(体力の限界なんじゃ・・・)

その不安は的中し、寿が倒れてしまった

いてもたってもいられないあたしに徳ちゃんが下への行き方を教えてくれる

聞いた瞬間にあたしはヒールで走って向かった

途中で缶のスポーツドリンクを何本か買って


「おい、桑田・・・飲み物くれ」
「買ってきます!」

久しぶりに聞くこの声、懐かしいし愛しく感じる

物陰から会話を聞いてるとストーカーのようだが、顔を合わせるつもりはないので仕方がない


『ねぇ、坊や』
「は、はぁい!!」

桑田と呼ばれた少年が横を通ったので呼びかけ手招きをする

なんて間抜けな声を出すんだろうと笑いをこらえる


『悪いんだけど、このドリンクあそこの差し歯に渡してあげてくれるかしら?』
「み、三井さんにですか?」
『そうよ、だって彼倒れたでしょ?だからあげるわ』

そう部員の子に渡して自分は観客席に戻る

(ここまで来ても心配するなんてあほみたいね)

どうしても寿のことを考えてしまう自分自身が面白く少し笑ってしまう


『徳ちゃん、あのね、あの部屋あたしもう戻らないの』
「なんでだよ?」
『引っ越ししたのよ、仕事場が変わってね。だからあと1ヶ月位しか入れないからたまり場にするの気をつけなさいよ』
「◯◯ちゃん!ど、どこにいくの!?」
『さぁ、どこでしょ。あら、そろそろ鉄男の機嫌が限界かも。行くわね』

サングラスをかけ直し、徳ちゃんに元気でねと別れを告げその場を後にする

相変わらず元気そうでよかったと安心する反面、自分と付き合っていたころの面影がなく寂しくもなってしまった


「なんだよ、結局こんな時間じゃねぇか」
『悪かったわね、仕方がないでしょ』

そう言いつつまた鉄男のバイクの後ろに乗り、そのまま出発する

やっぱり寿とは元々住む世界が違ったのよ


「フラれてきたのか?」
『あんなお子ちゃまに誰がフラれますか、フラれる前に姿消すのよ』

大人の女性でしょ?と笑って言えば鉄男は馬鹿笑いする


「お前・・・お子ちゃまって同い年じゃねぇか!」
『あたしはあいつと違って14から働いてんだから大人なのよ』

高校なんて行ってない、夜の店で働くあたしがあいつの足をひっぱるんじゃないかって

そう思ったら自然と住居も働く店も変えていた


ここまでしたんだもの、もう会えないともわかっている

だけれどまだ寿が好きだからさよならは言わないわ

少しくらい期待させて頂戴、また会う日が来たなら直接言ってあげる

『愛してるわ、寿』

27/09/13
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ