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最初に彼に出会ったのはアララギ博士のおうちの中で。
人間なんて今まで知ってる人は少なかったけれど、その中でも一番若い男の子はボクにとても好意的で、それがなんだか嬉しかった。
「わぁ…かわいい!」
初めて会った彼はそんなことを言ってボクに明るい笑顔を向けてくれる、だからボクだって負けないように思い切り笑ったら、アララギ博士はおかしそうに笑っていた。
ご主人様は今ボクらの前を嬉しそうに歩いている。
モンスターボールから手持ちを全て出してぞろぞろと連れ歩く姿は異様だろうとは思うけど、周りに人もいないし関係ないか。
ちょっとしたパレードみたいな列の一番後ろで、ボクはみんなを早足になって追っていた
「新入り!何ぼへっとしてんだ置いてくぞ!!」
「ご、ごめんなさい!ケンホロウさん!」
彼がすでに持っていたポケモン、つまりボクの先輩は三匹だ。
みんなは同じ頃に手持ちになったらしくて上下関係なんてないようなものだろうけど、そこから一年近く離れたボクはそうもいかない。
そもそも今まで接してきたポケモンだっていつも一緒にいたバオップとヤナップだけだし、余計に接し方はよくわからなかった。
「ったくトロトロしやがって。いいか新入り、トウヤはどんくさいアホだからお前までそのペースだといつか遭難するぞ?」
ボクに一番構ってくれるのがケンホロウさん。
言い方はぶっきらぼうだけどなんだかんだでかなりボクのことを気にかけてくれている優しいポケモンだ。
あまり物事をはっきり言えないボクの言いたいことを汲みとってくれるし、危ない目にあいそうになったらいち早く助けてくれる。
でもお礼をいったらどうしてかつつかれてしまう。それはちょっと痛いけど、傷つけるためじゃない、所謂照れ隠しというやつらしい。
「ケンホロウくん、その言い方はあんまりよくないと思うな」
「…っち、姐さんは甘すぎるんだよ」
「そうかな?ヒヤップくんだってちゃんとわかってるんだから、慣れるまでもうちょっと時間が必要でしょう?」
「タブンネの言うとおりだ。ケンホロウ、お前はそういうところをなお…」
「黙れヨーテリー!」
タブンネさんとヨーテリーさんは、よくケンホロウさんを叱っている。
それの原因がボクだと思うとなんだかすごく申し訳なくなってしまうけど、また謝ったらケンホロウさんのイライラが大きくなるだけだろう。
タブンネさんはお母さんみたいに優しくてあったかいポケモンだ。怪我をしたら治してくれるし、ときどきボクにきのみを分けてくれる。バトルを頑張ったあとにはよしよしと頭を撫でてくれて、よく喧嘩になるヨーテリーさんとケンホロウさんの仲介をしていた。
ヨーテリーさんは小さい体ながらもどこか威厳があって、なぜかお父さんみたいにも見える。
ご主人様との付き合いも一番長く、彼のことを気にかける様子もよく見かけた。
「わ、わわ…!喧嘩、喧嘩はいけませんよ!!」
「うっせえっつってんだよヒヤップ!!」
「だからケンホロウくん!」
「ヒヤップ、これは喧嘩ではない。ケンホロウをしつけているだけだ」
「ああ!?何言ってんだ!!」
新たな仲間として快く迎えてもらっていることはよくわかるんだ。でもまるで反抗期を迎えた子どもとそれに手を焼く両親のような三匹に付け入る隙なんてこれっぽっちも見つからなくて、どうしても居候をしているような居づらさを感じてしまっていた。
「わぁ、仲良しだね!ヒヤップももう慣れた?」
「お前の目はどこについてんだ!」
「トウヤ君にその口の聞き方はなんだ!」
ここで、ご主人様がくるりと後ろを振り向く。
ついさっきご主人様の妹さんやお友達と会えたから上機嫌なんだと、さっきタブンネさんが教えてくれた。
あきらかに睨み合っているケンホロウさんとヨーテリーさんにはもう慣れっこなのか、こうやって喧嘩しているのは仲の良い証拠だと半分諦めているのか、彼はよく喧嘩する二匹をみても仲良し、だと言う。
「トウヤ君も、私たちと仲良しだよ!!」
きゅう、っとタブンネさんがご主人様の足に抱きついた。それでまた更に表情を緩め、彼女の頭をよしよしと撫でた。
ボクたちの言葉がご主人様に伝わることはないけど、それでもちゃんと思ってることを感じ取ってくれる。
怪我をしたらすぐに気づいてくれるし、ときどき抱っこしてくれたりもした。そのときご主人様はちょっと無理をしているようだったので、ボクは少しだけボクよりも軽い、まだご主人様と会ってもいない二匹のことが羨ましくなった。
「ヒヤップ、おいで」
「なんですか?ご主人様?」
「ほら、高い高い!」
ちょいちょいと手招きをして、近寄ったボクをまた思い切り抱き上げる。
あまり運動が得意じゃないご主人様の笑顔がすぐに重さでひきつっていくのがわかったけど、それでも楽しそうなことには変わりない。
こっちはいつかボキッ、とかいう音がしそうで気が気ではないからできれば早く下ろしてほしい。
いつもと違う視界は楽しかったけど、それよりも彼の体が心配だ。
「ご主人様、無理しないで!」
「もう、ヒヤップそんな顔しなくても、僕だってこれくらい、は」
「おいトウヤ言動と行動が一致してねえぞ」
「ううう…ケンホロウたちもそんな目でみないでよぉ…」
しぶしぶといった様子でボクは下ろされる。
腰や腕を痛めていないかという心配は、とりあえずはしなくてもよくなった。
「ヒヤップ、今楽しい?」
「はい、すっごく楽しいです、ご主人様!」
「…ありがとう、ヒヤップ!僕もね、ヒヤップと一緒にいれてすごく楽しいし幸せなんだ!ヨーテリーとケンホロウとタブンネもいる今が、すっごくすっごく幸せ!」
そんなこと言ったらまたケンホロウさんにつつかれるだろうなあと思ったら予想通り、数秒後には「痛い、痛い!」という声が耳に聞こえてきた。
それを見てタブンネさんがくすくすと笑い、ヨーテリーさんはケンホロウさんに小言を言いながらも怒鳴りつけることはしない。
予想通りすぎるみんながなんだかおかしくて、ボクも彼らと一緒に笑う。
まだまだぎこちないかもしれないけど、彼らの家族と胸を張って言える日がきっともうすぐ訪れるだろう。というか、訪れるといいな。