【ラジアータ小説】

□息子の隣
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夜中に喉の渇きを覚え目を覚ました。
夕方降り出した雨はまだ続いている。雨の日は体が怠くなるからかなわない。
リンカは隣のベッドで眠るコテツが目を覚まさぬよう、音を忍ばせベッドを下りた。
水を飲む前に息子の寝顔を確認しようと、ベッドを覗く。しかし、そこにコテツの姿は無かった。
一瞬焦ったが、すぐにその理由を理解する。
(今日は、向こうで寝ているのか…)
今ではもう珍しく無くなった息子の行動に、少し寂しさを覚えながら、リンカは水を求め台所に向かった。

開けたままだった窓の外から雨の匂いがする。
霧のような雨が奈落獣の街を包み込んでいた。
リンカは外の世界を眺めながら、明日の仕事の事を考える。

水を一杯飲み、台所を後にした。
コテツの寝顔を一目見ようと思う。
リンカは寝室の隣、元空き部屋の戸をそっと開けた。
暗闇の中に確かに人の気配を感じる。
音を立てぬよう、静かに足を踏み入れた。
ベッド――昔旦那が使っていたやつだ――に近付く。そこに、コテツはいた。
ぐっすり眠っている。穏やかな表情をして、暑かったのか布団をはねのけて、ガンツとぴったりくっついて。
まだ幼く大きい方ではないコテツは、ふくよかな体型のガンツとくっついてると、更に小さく見えた。
その対比に、リンカは少しおかしくなる。と同時に、悔しさも覚えた。
コテツは、先日いきがかりでヴォイドに入ったガンツに、非常によく懐いている。いつも一緒にいたがり、風呂も二人で入っている。最近ではこうして、ガンツのベッドに潜り込むようにまでなった。
あれだけ自分にべったりだったコテツが、他の大人にこれだけ懐くなんて。
ガンツもコテツを可愛がっており、端から見れば本当の親子のよう。父親のいないコテツは、無意識に父親の愛情を求めているのかも知れない。
息子の奥底にある寂しさに触れた気がした。
溺愛と言われる程愛情を注いできたつもりだったが、やはり、父親と母親は違うのだ。
リンカはコテツに布団をかけ直し、頭を撫でた。
ガンツの父親のような愛情がコテツの為になるとは頭ではわかっているが、自分だけの息子を奪われた気分になってしまうのは、どうしようもなかった。
(ガンツめ…)
コテツの横で眠る男の寝顔を見る。穏やかな顔をして眠っている。ガンツの場合、いつもそんなような顔だが。
感謝し、少し恨みながら、コテツを撫でたついでにそっと頭を撫でてやると、穏やかを通り越して間抜けな顔になった。
リンカはまた少しだけ笑って、二人に背を向けた。
いつか、自分だけの息子を奪われた悔しさが、お前ならまぁ良いか。と、思える日が来るかも知れない。きっと、その時は。
(おやすみ、二人とも)
リンカは部屋を後にした。

 
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