【ゴエモン小話】
□不自由を感じる時
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手が欲しいと思う。正確には指、だが。
宿屋の一室。サスケは寝転がり天井を見つめながら今日の事を思い出す。
目的地に向かう途中の雪山での事であった。
寒いわね。
そう身を縮こませた彼女は、口元に掌を持っていくと息を吐きかけた。
それをすると蒸気で手が一瞬だけ暖かくなるのだという。呼吸を必要としないサスケには、そんな事はわからないけれど。
少しばかり前、今のヤエのように手を暖めていたおみつの手を、ゴエモンがそっと握って暖めてあげていた事をサスケは思い出した。
(お二方のなんと幸せそうであったことか)
流れる白い息と赤くなった彼女の手を見つめながら、サスケは思った。
(拙者も暖めてあげられれば良いのに)
自分は彼女の手を暖める事もできないのか。
サスケは己の丸い手を憎々しげに見つめた。こんな手では誰かの手を暖めるなどできる訳がない。
からくりではあるが“生を受けた”と言っても良いのだろうか。兎角その時から、サスケは今の姿形で、もちろん手も丸かった。だから彼は別段、手に指がついていない事を不自由だと感じていなかった。人間が空を飛べなくても不自由と感じないように。
しかし、今まで何とも思っていなかったその違いが、酷く不自由なことに思えてきた。
彼女の手を暖められない事に気付いた瞬間からである。
思えば、不自由なのは手だけではない。
人間のように赤い血が流れていない自分には、彼女の痛みはわからないし、人間と同じ心を持っていない自分には、きっと彼女の本当の悲しみはわからない。
「なんて不自由なのでござろう」
手が丸くなければ。
赤い血が流れていれば。
心を持っていれば。
からくりでなければ。
彼女を思うとき程、己の体に不自由を感じることはない。
不自由を感じる瞬間
(そなたを思う分だけ)
(拙者は無能になる)