【ゴエモン小話】
□からくりに恋をさせる方法
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この相手にはどの攻撃が有効だとか、この忍術が効くとか。
私は教本の教え通りにやってきた。そして今まで上手く行ってきたのに。
(なんという、強敵)
こいつをどうにかする方法なんてどの教本にも載ってなかったわ。
「いい天気でござるな〜」
私の隣の縁側に腰掛けたそいつは、手に持ったお茶を啜りながら呑気に言った。からくりである彼の体内でお茶はどうなっていくのだろうと疑問がわくが、いつも出てこない答えなので考えない事にする。
「今日も平和でござるな、ヤエ殿」
「さぁ、どうかしら」
少なくとも私の心中は穏やかでなく平和でない。
(あんたのせいよ)
まんまるい横顔を殴りたくなる。
忍術や剣術の教本ばかり読んでいた私へ、面白いから読んでみてとよく恋物語を薦めてきた母上。私は口癖のように返していた。
忍者団のリーダーになるのだから恋愛にうつつを抜かしてる暇なんてないのよ。
誰かを好きとか嫌いとか、そんな話は好きではなかった。興味もなかった。
(ああそれなのに)
つい目で追っている奴。そいつは人間ではないけれど。
私は考えた。もしかしたら?
ないとは思うけど
好きなのかしら?好きなのかしら?
(そう考えてみてしまった時点で、もう)
「私は、あんたが好き、よ」
「拙者もヤエ殿が好きでござるよ」
予想していた答えであるものの、悔しいくらい胸が高鳴った。それでも期待はしなかったのは、下手に期待すると簡単に裏切られる事を知っているから。
「もちろん、じいさんも好きでござる。ゴエモン殿の事も」
ほらきた。悪気がないからタチが悪い。
「あのゴエモン殿と一緒にいた忍者のエビ…エビ…、なんと言ったでござったか」
「エビス丸?」
「そう、エビス丸殿。エビス丸殿の事も、好きでござる」
名前も思い出せないのに、好きだというのか。
所詮彼にとっての“好き”など、どれもみな同じ。私の事もみんなの事も、平等に好き、なのだ。
「あんたの好きって、どういう好きなのよ?」
「ヤエ殿、どういう、とは?」
「…知らないわよ」
こんな事なら、一冊くらい母上から恋物語を借りて読んでいれば良かった。
そんな物を読んだからと言って、どうにかなるものではないし、恋愛に教科書などないと、百も承知だけれど。参考くらいにはなったかも知れないのに。
(ああもう、誰か教えて)
からくりに恋をさせる方法
いよいよ、教本なんてない。