【ゴエモン小話】
□オチル瞬間
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私は今まで、秘密特捜忍者として色々な敵と戦ってきた。
手こずる事もたまにはあったけど、最後には必ず勝利をものにしてきたわ。
どんな相手にも恐れる事なく、立ち向かってきた。これからだってそう。決して逃げ出さない。
決して…
「きゃあああああああああああああ!!」
「ヤエ殿何処に行くでござるかああーっ!?」
…どんな敵からも決して逃げ出したくないけど、今回は話が別よ!!
お化けなんて、反則だわ!!
夜の人喰い街道。
突然背後に現れた敵に、私は思わず悲鳴をあげて一目散に逃げ出した。
「はぁ…や、ヤエ殿…? どうしたんでござるか…?」
私を追いかけてきたサスケさんが、息を切らしながら聞いた。
「ご、ごめんなさい……その、急に出てくるんですもの…ちょっとびっくりしちゃったの…」
「そうでござったか…」
私が苦く笑ってごまかすと、呼吸を整えて、サスケさんが納得したように頷いた。
…お化けが怖いなんて、そんな情けない事は言いたくなかった。
今回の任務はお化けを相手にするのが絶対条件だし、それに今まで散々未来人だの宇宙人だのを相手にしてきて、今更お化けが怖いというのも無いと思ったからだ。
「立てるでござるか?」
しゃがみこんだままの私に、サスケさんが丸い手を差し伸べてくる。
頷いて彼の手を掴もうとした瞬間。
サスケさんの背後の茂みから、敵という名のお化けが飛び出してきた。
サスケさんが振り向くのと同時くらいに、私の口は本当に正直なようで、甲高い悲鳴を漏らした。
「っきゃぁあああああああ!!!!」
私が叫び声をあげている間に、サスケさんは背後の敵をクナイで斬りつける。
敵の斬りつけられた体から敵の魂が現れ、そのまま天に昇っていった。
「ヤエ殿? …もしかして」
「ごめんなさい…」
少しの沈黙の後、サスケさんが口を開いたので、すかさずそれを遮るように謝った。
…腰が抜けて立てないわ、体は震えるわで…既にもう感づかれてしまったかも知れない。もう白状するしかないようだ。
「私…お化け、怖いのよ…」
ポツリと呟く。
あまりの情けなさ、恥ずかしさに、周りの音が耳に入らなくてそう感じただけかも知れないけど、呟いただけにも関わらず、私の言葉は静かな夜によく響いた。
…また少しの沈黙が流れる。
くノ一でありながら情けないと、同じ忍者として呆れられてしまったのだろうか。
私が恐る恐る目線を上げると、サスケさんはいつもつり上がっている眉を少し下げ、ホッとした表情で口を開いた。
「そういうことでござったか。何かあった訳ではなく安心したでござるよ」
言うとニッコリと笑った。
呆れられていなかった事に心底ホッとしながらも、私は苦笑いして言葉を紡いだ。
「ごめんなさい、くノ一のくせに、情けないわよね…」
「何故でござるか? 拙者はそんな事思わないでござる」
サスケさんは首を傾げ、慰めの言葉をかけてくれる。
「苦手な物は誰にだってあるでござる。ヤエ殿の苦手なものが、たまたまお化けであっただけの話。それに、それを補い合っていくのが仲間というものでござろう」
言いながら、自身の存在を示すように自分の胸をドン、と叩く。
私に同意を求めるように笑ってから、しゃがんだままの私に手を差し伸べてくれた。
「…ありがとう」
時々、彼は本当にからくり人形なのかと疑ってしまう。からくりでありながら暖かさを持つ彼の言葉で、私は今までなかった心強さを感じていた。
優しい心遣いに、私は心からのお礼を述べ、サスケさんの丸い手を取る。
すると、上から不意にサスケさんの言葉が降ってきた。
「拙者が守るでござるよ」
え?
瞬間、胸が熱くなって、私は思わず動きを止めて彼を見上げた。
サスケさんは照れるでもなく、いつもの表情のまま続ける。
「拙者はお化けは大丈夫でござる故、ここは拙者に任せるでござる」
あ、なんだ…そういう意味ね
思わず口をついて出そうになった言葉を飲み込んで、私はもう一度サスケさんにお礼を言った。
不覚にもドキリとしてしまった事はもちろん内緒だけど、私の前を行く、私より小さい彼の背中が、なんだかとても逞しく見えた。