ここ

□哀切
1ページ/5ページ


信じて欲しい


俺は・・・俺は・・・






――――・・・・





「一体何をする気ですか・・・」

目隠しをされ、両手を縛られ頭の上で固定された状態の蔵馬が、怯えを含んだ声で聞いた。
仰向けになった上に俺がまたがっているから、蔵馬が震えているのが分かる。
完全に俺を怖がっている。

「どうしてこんなことをするんですか・・・。あなたは一体・・・」

誰なんですか

かすれた声は最後まで続かなかった。
尻窄みになってしまった声を聞いて、俺は苦笑してしまった。
まるで泣き声だ。


そう、こいつは俺が誰だか分かっていない。
後ろから薬を嗅がされ、誰だか確認する前に意識を失ったのだ。そして運んで来られたので、ここがどこだかも分かっていない。
気がついたら、身の危険を感じる状況に陥っていたという訳だ。
全くもって、不運だろう。


「何をする気なんですか・・・」

うわごとみたいに、先ほどと同じ質問を繰り返す。
それにしても、俺が全く誰だか分かってないとはいえ、自分をこんな危機に陥れた人間に敬語を使うとは。
いじらしくもあり、痛々しくもあった。

もちろん、蔵馬の質問には答えない。いや、答えられない。
単純な理由だ。ただ、声が出せないのだ。
声を出したら、バレてしまう。

俺たちは、全くの見ず知らずの他人という訳ではなかった。



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ