短編

□俺の頑張れる理由
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目が覚めたらそこはお花畑なんかじゃなく、また俺の部屋だった。


しかもそこには、あの日の俺たちが居た。

あの夜の俺たちが……。


俺の最愛の人
奈義叉





たった一人の肉親である姉を無くした奈義叉に
俺は慰めの言葉をかけるハズだった。



でも奈義叉はずっと泣かなかった。泣くどころか笑ってたんだ。

弱味なんか見せずに、その日も俺んちへ来ては
「今日は何作って欲しい?遠矢(とおや)。」
って俺の名前を読んで夕飯を作ろうとした。


俺はその時、そんな奈義叉に苛立ってたんだ。




どうしてこの時俺の前で弱いとこ見せなかったんだよ…。




「遠矢、この間俺のリゾット喰いたいって言ってたよな?それ作ってやるよ。」



(あぁ、頼むよ。)
"俺"は言ったのに、そこに居る俺は黙ってた。




「なぁそれでいいだろ?遠矢」

「あぁなんだっていいよ。」

「何怒ってんだよ、膨れっ面〜。」


不機嫌な俺の機嫌をとろうとしてる。

笑いかけてる。俺に…。




たった一人の肉親の姉を亡くしてるのに、笑ってる。こいつ。
式の時だって泣いてなかった。

悲しくないハズ無いんだ。


なのに笑ってくれる。


なのに俺はなに考えてた?



「別に…。」
俺は何ふてくされてんだ?





「遠矢、もうすぐできるから片付けといて。」


「……。」

なんで何も言わないんだよ!



「ほら、遠矢。」



笑いかけてる…


奈義叉が俺に…。




「片付けとけって遠矢ぁ」




なのに…俺は…

「……。」



俺は不機嫌なまま無言で片付けをした。




その場から動かず放り投げるように物をどかす。


俺はただの我が儘っこだ


「はぁ…遠矢…。」


奈義叉が
呆れてる。


「何怒ってんだって…?」


奈義叉が気にかけてくれてる。

なのに…「別に怒ってねぇよ。」


「……。」


奈義叉は頭かかえてる。

面倒な恋人

だっただろう…。








俺たちは黙って食事をした。

俺が喰いたいって言ってたリゾット。
どんな味だったか覚えていない…。

俺のために作ったリゾット。



「……。」美味しいハズなんだ

「……。」美味しかったハズなんだ


美味しすぎて嬉しくて!!



奈義叉は疲れてるハズだから
奈義叉を励ましたかった。

慰めるのは俺なのに。


俺は奈義叉の為なら苦なんて無いから。
奈義叉を支えたかったのに。



「……なあ、遠矢。」

なのに…。


「……。」

どうして俺が…。

「はぁ…。」

奈義叉に更に…

「あんまり…気苦労かけんなよ…。」


気を使わせたんだ?



「はぁ?」


意味がわからない。
俺はバカか?


「遠矢、俺だって式の事とかで疲れてるんだ。…遠矢が不機嫌だと落ち着けないだろ?」


そうだよ…疲れてる
体も心も…。






やっと…




やっと弱味を見せてくれたじゃんか…。


「…やっと弱味出したと思ったら、姉さんの事じゃねぇのかよ!俺が悪いのか!?」


そうだ…俺が悪い…


「違うだろ遠矢…なんで怒ってるんだよ。」


「お前こそなんで何も言わずにいつもの感じ装ってんだよ!」

奈義叉ならそれが当たり前だ
「いや、それは…」


知ってたハズなのに
「恋人にすら泣きすがんねぇのか!?随分ご立派じゃねぇか…。」


違う、奈義叉は…
「お、おぃ遠矢…」

恋人だからこそ…

「心配してぇんだよ!こっちは!……いつまでも強がってんじゃねぇ!バーカっ!!」

言って俺は部屋をでた。

「遠矢!」



奈義叉は泣いてた…。

俺が背を向けた瞬間。


一人で泣いてたんだ。





今なら分かる
奈義叉は恋人だからこそ…

「恋人だからこそ…遠矢に…」

俺に…

「笑って…欲しかっ…たんだ。…遠矢…おれ……」








お前の笑顔で頑張れるから…。











end…。
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