短編

□俺の頑張れる理由
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俺が居る。


俺が寝ている。




奈義叉に見つめられて、俺が居る。

頭に痛々しく包帯を巻いている。





やっと思い出した

俺、部屋を出て


道路でひかれたんだ。









ってことは、今の俺…




霊体?





(おい奈義叉)



呼んでも返事がない。

俺を見てくれない。




いや、奈義叉は俺を見てくれてる。
今奈義叉が見てるのは俺だけど、そこに俺は居ない。



こっちだよ奈義叉
こっちの俺を見てよ…



振り向かない
届かない
聞こえてない


奈義叉が見ているのは俺の脱け殻。


本当の俺はこっちなのに。






俺は奈義叉を抱き締めたかった

そしたら気づいてくれそうだったんだ




でも怖くてできない

奈義叉に触れた瞬間、俺は今奈義叉との違いに気づいてしまいそうだったから。


奈義叉と俺は

生きてる人とそうでない人

そう教えられそうで、怖い。









奈義叉に触れたい


けど怖い。なんだか凄く怖い。

奈義叉…俺自身を見てないで

"俺"をみてよ



俺はこっちに居るよ…



何も言わない奈義叉






彼の顔を見る勇気がなかった。

弱味を見せろ

と言っておきながら、今の俺は
いつもの笑顔の彼以外みたくなかった。






へらへらしてて、ムカつくことばっかの奈義叉以外…

悩みなんて無いような
苦しさなんか知らないような

満開の笑顔の奈義叉以外…


いつも俺に笑いかけてくれる奈義叉以外…


見たくなんか…ねぇよ





お前の笑顔で頑張れてきたから…
俺は支えたかったのに

お前の笑顔に支えられていた





奈義叉…笑ってくれ


"俺"に…笑ってくれ


こんな辛気くせぇのお前じゃねぇよ。

奈義叉…





俺のせいなのか…。



奈義叉を暗くしたのは俺…


今の奈義叉に笑顔が無いのは俺の…





ごめん。奈義叉。











俺の想いが強くなってくと同時に、俺の意識は遠退いた。




やがて俺はまた、気を失った。

俺が頑張れる、奈義叉の笑顔だけ頭に残して
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