鵺奇譚
□白詰草話
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ふと気づくと、声が無かった。
僕がうとうとしている間にあたりは薄暗く、二人の姿は消えていた。
「さやか?…ヨウ?」
僕はたった一人で白詰草の原っぱに立ち尽くしていた。
えも言われぬ感情が背筋を這い上がって、僕は弾かれた様に走り出した。
山鳥の鳴き声に怯えながら、薄暗い道を走り帰る。
来る時は気持ちの良かった小川のせせらぎも、木々のざわめきも今は全てが恐い。
木々の枝や根に行く手を阻まれながらも、無我夢中で闇を走りぬけた。
祖父母の家に辿り着くなり母の小言が飛んできたが、さやかが居ない事と僕の真青な顔に気づき家中が大騒ぎになった。
近くの人々が総出でさやかを探してくれたが、さやかはついに見つからなかった。