耳袋〜みみぶくろ〜


□小鳥が来る窓辺
1ページ/1ページ

友人が引っ越したんですよ。
「ベランダに小鳥が来るんだよ」
そういわれて、泊まりにいった。

確かに周りには木が多くて、小鳥も来そうな感じではあるけれど……
何だかそのマンション自体がちょっと怖かったんですよね。

友人の部屋に入ってもそれは同じで、やはり怖かったんですよね。
でもまあ、住んでる人間に失礼だし、気にされても困るから
何も言わずに居たんですが。

お酒が入って、話に花が咲いて。
怖いのなんかどっかいっちゃって。
明日の朝のためにベランダにパンくずを撒いておくっていうから、一緒にベランダに出た。

ゾクッとするほどに夜の空気は冷たくて、酔いがふっとんじゃうくらい。

これで朝になったら小鳥が来るよって言うから、早々と布団に入った。

ふとまだうす暗い時間に目が覚めちゃって。
友人はまだ高鼾で寝てたんだけど、ベランダに何か気配があって。

あ、小鳥がきたんだ。
そう思って、驚かせないようにそーっと窓に近寄って、カーテンの隙間から覗いてみた。


確かにいたね。
ただ小鳥じゃないけど。

そいつはベランダの柵に捉まってた。

手だった。
どう見ても人間の手。
まるで羽ばたきでもするように指を動かしてる。

直感的にやばいって思って、カーテンの隙間もそのままに
窓からそーっと離れた。
目が離せないから後ろ向きに。
こっちに気付かないかと気が気じゃなかった。

そうしたら友人踏んじゃって。
そいつが「ぐほっ」って呻いた瞬間、その手はベランダから逃げた。

動きは本当に小動物っぽかったですね。

友人には言ってないです。
あのまま「小鳥」ってことで、今でもパンくず撒いてるみたいですよ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ