鵺奇譚
□24日の迷い人
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ふと喉が渇いて開いた冷蔵庫には、マヨネーズと納豆。中身が半分だけ残っている鯖缶しか入っていなかった。
仕方が無いのでコートと財布を引っつかむと、昨日から寒波の去らない外に出る。
耳が冷たくて手で覆いたいが、その手も冷たくなりそうでポケットから出すことが出来ない。
最寄りのコンビニに着く前に、しもやけになりそうだ。
体はだるいのに、寒さから逃れたい一心で自然と早足になる。
早足のまま角を曲がると、俺の足の裏に質量のあるものが感じられた。
「イタっ!」
「うわっ!?」
驚いたことに、俺の足許に人が倒れていた。
「すみません! まさか人がいるとは思わなくて」
人が道に這い蹲っているとは、俺じゃなくても思わないとは思うが、踏んでしまった謝罪はすべきだろう。
「いえいえ〜。こちらこそすいません〜」
起き上がったのは矢鱈に顔の彫りが深い、恐らく三十代かそこらであろう男性。
この寒空に凄い薄着で、見ているこっちが寒くなる。
「何か探しものですか?」
「ええ。私の家を探しているのですが」
「……」
アンサーA「迷子」。
アンサーB「浮浪者」。
アンサーC「変な人」。
「見つかると良いですね。じゃ、俺はこれで……」
アンサーCを選択した俺は、そそくさとその場を去ることにした。
「あっ! すいませんが一緒に探してくれませんか?」
袖を掴まれた。振りほどくことも可能だったが、一%に満たない確立で「私の家」という店があるかもしれないと思ってみる。
「……えっと、それはどういう外観の建物ですかね?」
「多種多様だと思います」
チェーン店?
とりあえず連れ立ってコンビニの方へと歩き出す。
コンビニに着いたら店員に話をして裏口から逃げよう。
そこまでは一緒に探してやるから勘弁してくれ。
「それってこの辺りにあるんですか?」
「ええ、恐らく。今夜から明日に掛けて、パーティーを開くらしくて……あ! ありました!」
きょろきょろと見回していた彼が指を指したのは、剥げた緑色の屋根に、白い壁だったのであろう古びた教会。
「え?」
「一緒に探してくれてありがとう!」
ぎゅっと俺の手を握りハグをすると、彼は手を振りながら教会へと走っていった。
その手のひらに、大きな傷のような物が見えた。
「……まさか、な」
呆然としたまま俺はコンビ二に入る。
暖かなコンビニの中は、クリスマス一色で彩られていた。
了