鵺奇譚

□渡れない橋
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友人の家を出たのは夕方。
宅飲みでほろ酔い加減もそこそこに、オイトマしてきた
―――筈だった。


おかしい。
今、自分は橋を渡って岐路についた。
なのに、また、同じ橋の袂に立っているのは何故だ。

もう一度橋を渡る。
黄色い欄干。
剥げ落ちた部分が錆色に腐食している。
下はそこそこの高さがあるものの、下を流れる川自体は浅いように思えた。
橋の幅は車が2台漸く通れるくらい。
大型車は1台しか通れないだろう幅。
長さも大して無い。
100mあるかなしかといったところか。
半分まで歩いた。
あと少し。
あと少し。


と、思う矢先に、再びもとの場所。
つまり橋の前に立っていた。

これを何度と無く繰返して、すでにあたりは真っ暗だ。
可笑しなことに、車も通りかからない。
いくら田舎とはいえ、1台くらい通りかかってもいいだろう。
人も見当たらない。
取り敢えず前に進むしかない。


それを何度か繰り返し、酔いも覚めふと気が付くと―――
自宅の前に立っていた。

家に入るなり娘に叱られた。
何処をほっつき歩いていたのか、と。

私は橋を渡ろうとして渡れなかったことを説明したが、とうとう信じては貰えなかった。



渡れない橋   了

※実話です

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