鵺奇譚

□手招く蝶
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ふと、車道にちらちらと動くものが目に入った。

何かと思い、足を止めると道の半ばにモンシロチョウが落ちていた。
車が蝶を跨ぐ度に、恐怖に慄く様にぱたぱたと激しく動く。

風圧に触覚でも折られてしまったのだろうか。
だけどまだ生きているのなら、せめてアスファルトの上ではなく、花壇の花の上においてあげようか。

そう思って、車が途切れたのを見計らい車道へと出た。

蝶に手を伸ばしたその時―――


さっきまで居なかったはずのトラックが目前に迫っていた。


「ッ…!!!」
咄嗟に頭を抱えしゃがみ込んだ。




衝撃は来ず、風だけが通り過ぎた。
恐る恐る目を開けてみると、何もいなかった。

否。
足元に腹の潰れた蝶がいた。
まだ無事な片羽根が風に浮かされてはためいていた。

当初の予定通り道路脇の花に蝶の屍骸を置く。

蝶が最後に見た風景だったのか、それとも彼岸に誘われたのか。
私には知る術がなかった。


手招く蝶   了

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