鵺奇譚
□氷上の少女
1ページ/1ページ
さくさくさく。
まだ誰も足跡をつけていない真っ白な道。
少し、水気を増した雪の上を歩く。
まだ雪景色とは言え、水気のあるみぞれ雪は春の訪れを感じさせる。
畑の畦道にさしかかると
ふと、目の端に何かが動いた。
狐だろうか。
何気なく目をやった先には――――女の子がいた。
見知らぬ顔。
この辺の子ではないのだろうか。
都会から遊びに来たのだろうか。
纏う水色のコートが薄物に見える。
氷の上をスケートのように滑って遊んでいた。
目が合うと、彼女は口の端を柔らかに持ち上げて手招いた。
口が「あ」「そ」「ぼ」と開いた。
可愛らしい誘いに、僕は―――――
一目散に逃げた。
彼女の周りには一つの足跡も残っていなかった。
だが、どうやってあの溜池の氷の上まで辿りついたのか、容易に想像がついたからだ。
あの溜池は、春が近くなると子供が落ちるのだ。
きっと彼女に捕まってしまったのだろう。
氷上の少女 了