別世界の扉 ワンパンマン

□待ち人
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「「あ」」
 お互いに気が付いたのは同時だった。

「アンタ、こんな所で何してんのよ」
 気まずそうな顔を隠すように、思い切り不機嫌な顔を作ったタツマキがそう問えば、相手は出会った時と全く同じ、八の字に下げた眉のまま「家具探し」とだけ答えた。

「は?」
 タツマキにはその意味が良く分からなかった。見渡す限り瓦礫ばかりのここは、元Z市。ゴーストタウンと呼ばれた場所だ。先の怪人協会との戦いの際に全てが破壊された。その原因の1つにタツマキの強引なサイコスの引っ張り出し方というものがあったのだが、目の前の人物はそれを知らないし、タツマキも又、彼がゴーストタウンに住んでいたことなど知らなかった。

「俺んちを壊しやがって……」
 目の前のハゲはブツブツと言いながら瓦礫を掘り起こしていく。

 丁度良く飛び出していたコンクリート片に座り込んだタツマキは、彼の頭が反射する太陽光をぼんやりと見つめた。

「アンタ、この間私にヒーローをやってるのは趣味だからとか言ったわよね」
「あ? 言ったかも。それが?」

 タツマキの方を見向きもせずに、大きなコンクリート片をまるで紙くずのように軽々と放る。その姿が何故か、タツマキの幼い頃の記憶に棲む「彼」に重なった。
 タツマキの記憶の中、「彼」はそのマントを翻して言ったのだ。「ヒーロー活動は趣味」なのだと。
 そういえば、目の前のハゲた男もまた、ヒーロースーツにマントを翻していたことを思い出す。

「アンタのあのトンチンカンなヒーロースーツは、誰かをリスペクトしていたりするの?」

 唐突に話を振られ、面倒臭いといった表情を隠しもせずに「あれは貰い物だから」と手にした鉄骨を地に立てながら答える。

「……」
「何よ」
「……お前さあ、暇なの?」
「はあ!? この私が暇なわけないでしょ!? もし奇跡的に私が暇だったとして、アンタに何か関係ある!?」

 喰い気味に反論し、人差し指をその卵のような美しいフォルムを持った頭に、無遠慮に突き刺す。
「ちょ、おい、やめてもらえる?」
 迷惑そうな顔でタツマキを見るものの、避けるでもなく、強制的にやめさせることもしない。それが出来るはずなのに、とタツマキは心中で舌打ちする。

「……アンタが悪いのよ。あんな質問するから」

 あの人を思い出してしまった。
 幼い頃、自分を助けてくれた。タツマキに他人を当てにしてはいけないと教えてくれた人。
 その時、漸くタツマキは自分の力の使い道を示された気がした。
 誰にも――例え血の繋がった妹にさえ――理解されない、強大すぎる異能力を持つ怖さ。それに打ち勝てたのは「彼」の言葉があったからに他ならない。
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