怪力乱神
□怪力乱神VS伊達家2016
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「だからさぁ、今年の初めのこと思い出してたのさ」
雑巾を片手に茫としていた小十郎に声を掛けると、そう返って来た。
「ああ、今年の正月は何だか賑やかなのが来たよな」
「うん。もしかしてまた来るのかなぁ」
政宗と小十郎の間に無言の間が落ちたが、どちらともなく小さく噴出した。
「可笑しな奴らだったよな」
「だよね。でも、今年来たらさ、勝負は室内ゲームで挑もうぜ」
小十郎は軽く身震いした。恐らくあの、壁に貫通する殺人スマッシュを思い出したのだろう。結局、相手になったのは本気を出した成実だったが。
「そうと決まったらさっさと掃除して、練習でもしとくか!」
小十郎は雑巾を廊下に放り投げると、スライディングでもするように手を付いて廊下を走り抜けていった。雑巾がけである。
その姿を見送って、政宗も自分の部屋のゴミ箱を持って、玄関の方へと歩いていった。
外に出されたゴミ袋に中身を移して、ふと夕闇が忍び寄る空を見上げる。大晦日とはいえ、空に変わりはなく、冷えてきた空気は乾いた風となって政宗の髪をさらう。
寒さに身震い一つして、政宗は屋内へと戻った。
自室に戻る最中にある台所から、ふわりと香った匂いに足を止めて顔を覗かせると、綱元が忙しそうに御節の重を詰めていた。
「また今年も大量に作ったんだな」
その声に顔を上げた綱元が政宗の姿を捉えると、然も愛おしそうに微笑む。
「足りない等と言われては、お台所を担う綱めの名折れで御座います」
「伊達巻大量すぎやしないか?」
重に詰めきれずに残った料理は沢山あれど、伊達巻はその三倍はあるように思われた。
「何をおっしゃいます!! 政宗様の好物である伊達巻を沢山拵えなくて、何が御節ですか!!」
「えっと……うん」
綱元の剣幕に押されて何も言えず頷いてしまったが、実を言えばそこまで好きではない。諸説ありとされている伊達巻の由来の一つ。「伊達政宗が好んだから」自体、当時綱元や女衆のその剣幕で押し通された故に出来たと言う事を、四百年経った今でも言えずにいる。
「と、とりあえず今年も楽しみにしてる……」
政宗がそう言えば、綱元はぱあぁという目に見えそうな効果音とともに、よい返事をして煮豆の鍋へと戻っていった。
今更、伊達巻より昆布巻きや田作りの方が好きだなんて言えない。
初めて見た時、色の美しさと物珍しさに褒め過ぎたのがいけなかった。
政宗は前世の「政宗」に、少しは自重しろと言いたくなったが、「本人」も毎年繰り広げられる伊達巻攻めの苦痛に十分反省はしているようなので、ため息一つ落とすと台所を後にした。