耳袋〜みみぶくろ〜


□まだ居る
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うちの中学校には七不思議はなかったんだよね。
でも、怖い噂話はあった。

だから自分等で七不思議をきめようか、なんて何人かのクラスメートと盛り上がったりしちゃって。
友達の兄弟とか、古い学校だったから親とかにも聞いて、その中から厳選しようなんて。

怪談を集めたわけだ。

その中の一つにこんなのがあった。

「二階の廊下には下半身のない生徒がいて、自分の足を探している」
ただそれだけ。
よくあるテケテケさん的な奴。

そして、友達のお兄さんから聞いた話にこんなのがあった。

一階にある技工室で、何人かが先生と居残りで糸鋸を扱っていたら、足音が聞こえた。
誰だろうと思って廊下を見ても、廊下側は壁ではなく窓がある状態なのにも関わらず、足音は聞こえているのに姿がない。

そのうち、引き戸をドン、ドンと、少し乱暴に叩く音がして、先生は誰かの悪戯だろうと勢いよく戸を開けた。

先生の視界には何も見えなかった。
だけど、背後で見ていた生徒達がけたたましい悲鳴を上げた。

何も居ないのに!
先生が落ち着かせようと振り返ると、その脇を何かが通っていく。

指定ジャージを履いた、下半身だけが走っていた。
そのまままっすぐ向かいの窓にぶつかって消えたそうだ。


この話を聞いて、仮説を立てた。
この下半身だけの怪談は、二階の足を探している生徒の怪談に出てくる足ではないのかと。
そして、下半身は目がないので階段が探せず、上半身は足がないので二階から下りられないのではないか――と。

個別の怪談としては地味だが、二つをくっつけると中々面白い。
そう思って1セットにした。
どちらも自分達の代では聞いたことのない話だったから、どこか他人事だった。
その日までは。


ある給食当番の日。
届いた給食を運ぶために向った先で、給湯室から出てくる足を見た。
それはとても自然で、単にそこから誰かが出てくるのだろうと思った。
ただそれだけだったのだが、それは自然に出てきて、とても不自然に上半身が見えなかった。


え?

と思って漸く、周りに音が戻ったような感覚があった。
給食の時間。給湯室の隣は給食が届く配膳のケースがおいてある。その前にある廊下で人の声がしないなんてありえないのだ。

そして気がついた。
その足が履いていたのが、緑色に白のラインのジャージ。
それは昔の指定ジャージだと、あとから聞いた。

そいつは、まだいるのだ。
そう思った。

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