耳袋〜みみぶくろ〜
□誰か来た?
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その子の家に行ったのは、それが初めて。
玄関を入ってすぐの廊下を左に居間。
右に階段が見えてた。
その子の部屋は、階段を上がって右にあった。
襖を開けっ放しにして、「飲物とってくる」って彼女は一人降りていった。
入り口に背を向けるようにして、座って眺める彼女の本棚には漫画がぎっしりだけど、きちんと整頓されていて、なんだか羨ましいくらい綺麗だった。
そんなことを考えていたら、トントントンと階段を上がってくる音がした。
そのまま背を向けていたんだけど、足音は一番上まできたのに一向に部屋に入ってこない。
不思議に思って振り向けば、誰も居なかった。
階段も覗き込んだけど、やっぱり誰も居なかった。
降りていく音は聞いていない。
階段を見下ろしていると、彼女がトレイにグラスを二つ載せて戻ってきた。
「何見てんの?」
「今、一回上まで来て戻った?」
「いや」
「ですよねー」
私の態度から、彼女はすぐに察した。
「まーた何か見たんか」
「見たというか、誰かが上がってきた」
「あー……何かいるかもしんない」
そんな話をしたのが、20年近くも前。
先日、久々に訪ねた彼女の家。
相変わらず、階段には誰かがいるらしい。