耳袋〜みみぶくろ〜


□死期を悟る人
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人の死期を悟る人間がいるというのは、稀に聞く。
私の祖母の方の家系には、そういう人達が多かったと聞いた。

中でも、ひときわ逸話の多い人がTのおじさんと呼ばれる人で、出羽の辺りで隠者となっているらしい。

彼は、ある日ふらりと我が家にやってきて、まだ若かった祖母に死期を見たらしい。
あまりの若さに死期が告げられないと、ただ見えたことだけ告げて去ったという。

そして、祖母は五十台を少し過ぎて亡くなった。

心不全。そう言われているが、実際は救急車の乗車拒否で病院に到着するのが遅れたのだ。
昔はよくある話だったそうな。

そして、その葬式の日。
Tのおじさんはふらりと現れた。
勿論誰も連絡などしていないし、それ以前に居場所を知らないので、できない。
そのときまで半信半疑だった母は、本当に死期が見えていたのだと思ったそうな。

彼は僧侶たちより格上の存在だったらしく、三人の僧侶より一段前に座していた。
今思えば、阿闍梨の称号を持っていたのかもしれない。

葬儀が終わって七日後、Tのおじさんは行ってしまったが、それから消息は分らないそうだ。

因みに、彼ほどではないが母にも人の死期を予知する時がある。
母の場合、笑い話にしかならないのだが、魚の目ができるのである。

祖母が亡くなる時は、右手一杯にたくさんの魚の目ができたそうだ。

私がそれを認識したのは、向かいの家の主人が無くなった時だった。
母の足には魚の目ができていた。
冗談で「誰か死ぬかもね」なんて言っていたが、本当に亡くなった。
誰も予測できず、いまだに理由も分らない自殺である。

それが小学四年生のときだった。
それからは分らない。

ただ、母は今も変に感の鋭い人ではある。



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