耳袋〜みみぶくろ〜


□8月15日
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お盆の時季に海に行くと――なんて、良く聞きますよね。

地獄の釜の蓋が開くって。
ご先祖様が帰ってくるって。
だから海や川の水辺には行っちゃ駄目なんだって。

本当はそうじゃないんです。


お盆になると、実家に帰ってくる友達らで集まって昔のように遊んだりしたくなるのは、今も昔も同じようで。

墓参りだ何だと用事を済ませて、体が空くのは大概15日。
仲間内で集まって、川辺でバーベキューや花火をしようってことになったんです。
ビール片手に花火を振り回して、わいわい遊んでた。

花火が尽きて、思い出話に花が咲いていたところに、一人が昔川で泳いだことを言い出した。

暑いのもあってか、みんな浅瀬にサンダルで入って涼みだしたんですよ。
酒も入ってたせいか、一人が調子に乗って川に入って泳ぎだした。


少しすると、一人の女の子が足に何か触ったって騒ぐんですよね。
魚か藻じゃないかって皆で笑った。
でも、捉まれたみたいだって言うんですよ。

気持ち悪いなって、みんな水から上がったのに、泳ぎだした奴だけまだ上がってこない。

ただ、暗い水辺から奇声とバシャバシャ音がするから、まだ楽しんでいるようだと皆で笑ってたんですよ。

そろそろ後片付けをして帰ろうって声を掛けたんですよね。

急にじゃぶんって音が止んだ。
泳ぐのをやめたんだろうって思って誰も気に留めなかった。

でも、何分経ってもそいつが川原に上がってこない。
水に肩まで沈めたまま変な低い声をあげてるんですよ。

「何してんだよ」って声を掛けてもそのまま。
「ふざけんなよ」「おいてくぞ」って、
みんなが苛立ち始め、女の子が懐中電灯をそいつに当てたんですよ。

そうしたら、そいつ肩まで水に浸かってたんじゃなく、顔半分まで水に沈んでたんですよ。

「やばい! 溺れてる!」って皆が慌てて水に走り寄った。

そいつを引っ張りあげようと男二人で腕を引き上げようとしたら、やたらに重い。

皆で何とか川原まで引きずって、そいつの頬を叩いて、名前呼んで。
何とか意識が戻ったから、タオルケットに包んですぐに病院まで担ぎ込んだ。


医者に特に異常なしといわれて、皆ほっとした。
だけど歳くった看護師が顔をしかめて言うんですよ。
「あんた達、どこで何したんだ」って。
 
皆不思議がって、診察室に行くと――


ぞっとしましたね。
さっきまで暗かったから全然気がつかなかったけど
あいつの体中に大小様々な手の痕がびっしりついてたんですよ。

「お盆だから…」って誰かが言った。

すぐに看護師さんが「違う」って言ったんですよ。


今日が終戦記念日だからだって。

戦時中、川辺や海辺には水を求めて、何万という人が押し寄せて死体の山になっていた。
誰の遺体かもわからずにその辺に埋めたり、放っておかれた。

終戦だといわれて、あと少しで生き残れたのにって悔しさがある。
成仏できるはずが無い。

それを今の若者は知らないって。


お盆時季に水辺に行ってはいけない理由は、こういうことなんです――――

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