耳袋〜みみぶくろ〜


□Y家
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先輩が話してくれた話ですが。

A川市に、とある一家心中で有名になったY家というのがあるんです。
そこに何人かで肝試しに行ったみたいなんですよ。

その建物は山奥にあって、封鎖されてる柵を乗り越えて漸く中に入れる。
人里離れてるからって馬鹿みたいにはしゃいできたみたいなんです。

真っ暗で、血の跡とかは分からなかったと言っていました。
ただ、先輩は余り気乗りせず、すぐに帰りたくなったそうです。
なのに、他の面子がやたらに騒ぎまくった。

物は壊すし、落書きはするし、ゴミは置いていくし。
それはもう、悪ふざけで怖さを中和してるって感じで。
逆に先輩はそれが怖かったみたいです。

女の子たちがこぞって帰りたいと言い出したので、皆その日は何処にも寄り道しないで
日付が変わらないうちに解散したんですよ。

その中でも一番悪乗りしていたA君が帰宅すると、珍しく母親が起きていて。
「何処に行ってきたの」って訊くんですよ。
何処でもいいだろってA君は答えようとしなかったんですが、母親が言うんですよ。


「さっきYさんって人から、電話が来て『もう来るな!』って凄い剣幕で言われたんだよ!」――って。

A君は怖くなってさっき別れたメンバーの一人に電話したんですよ。
だけど、その電話先のN君は通話中で繋がらない。

それがまた怖くて、何度も何度もかけ続けると、何度目かで漸く通じたんですよ。
ほっとして向こうの応対を待たずに、今Y家から電話が来たことを早口で伝えて
「マジやべぇ!」とまで言った所でN君が何も喋らないことに気がついた。

「どうした?」と恐る恐る訊いて見ると、N君の携帯電話にずっと非通知で電話が来ていて。
気持ち悪いからと出ないでいたら、自宅の固定電話に電話がかかってきたというんです。

やっぱり怖いから、まだおきていた妹に電話を取らせた。
するとN君の妹が言うんですよ。


「お兄ちゃん。Yさんって人が、忘れ物があるから取りにきてって言ってるよ」って。

何を忘れてきたのかはN君にも心当たりはないようで。

A君もN君ももう、Y家に誘われても二度と行かないといっていたそうです。


次行けば、もう戻ってこられなくなりそうで――

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