時の井戸

□器
1ページ/3ページ

一際高い悲鳴と、撓る体。
吉法師は思わず目を逸らせた。
「吉法師」
小十郎の声に恐る恐る、血が止め処なく溢れる患部へと目を向けた。

「吉法師。良いか、手を退けたら直ぐに目を押さえて血止めをしろ」
喉が貼り付いて返事が出来なかったが、辛うじて頷いた。

小十郎がそっと手を避ける。
其処にあった血塗れの肉はなく、血が湧き水のように溜まった眼窩があるだけだった。
言われるまま、血が零れる前に布で覆う。
ぎゅっと押さえたつもりが、手に力が入らない。
言うことを聞いてくれないそれは、まるで他人の体の様だった。

その上から大きな手が覆う。
「後は私がやりましょう」
綱元と呼ばれた青年が、そっと吉法師の手を除けた。
「頑張りましたね。有難う御座います」
優しげに労う綱元に、ほっとしたのか梵天丸から離れると全身の力が抜けた。

「吉法師!!」
誰かが名を呼び、大きな手が体を支えてくれたのだけは分ったが、吉法師はそのまま意識を手放した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ