別世界の扉 ワンパンマン

□憧憬 
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「……その後、何回か彼を見かけたけれど一度も声を掛けられなくてね」

 不良よりも厄介な社会の秩序というものに、彼は辟易していたように見えた。
 そう無免は苦く笑った。

「俺に出来る事は少ない。そんなのは分かってるんだ。だけど俺は、あの時答えをくれた彼を救いたくてヒーローをやっているんだと思う。……はは。変だよな。彼だってもう……」

 もう大人になっているのは分かっているのに、無免の中の彼はずっと12歳のままだ。
 いつも独りでいた彼の後姿を、気が付けば探していた。
親の都合で転校するまでの間ずっと。

 最後まで言葉を交わすどころか、名前さえ聞けなかった。

「いーんじゃねーの?」
「え?」

 おでんを全て食べ終えたサイタマが、ぽつりと返す。

「お前が時間を稼いでくれたおかげで助かった人が沢山いる。ジェノスだって、あん時お前が来なかったらやられてたかも知れねぇし」

 真っ直ぐに前を向いたまま、ぽりぽりと頬を掻きながらなのは、照れ隠しなのかもしれない。

「どんな理由であれ、お前はヒーローだろ」
 もずく、ごっそーさん。

そう言って勘定をカウンターに置くと、サイタマは暖簾の外に出た。

「サイタマ君!!」

 満身創痍の体に鞭打ち立ち上がり、サイタマの後を追うように文字通り転がり出る。

「ありがとう!! 本当にありがとう!!」

「ん」
 振り向かずに片手を上げて去っていく後姿に、どこか懐かしいものを感じた。

 生き辛そうにしていた小さい背中。
 憧憬がダブる。

「まさか…………!?」
 それ以上声を掛けられず、無免はその背中を見送った。


  了
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