別世界の扉 ワンパンマン
□憧憬
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「ご主人! 彼に良いもずくを!」
B級に昇格した祝いだと言って無免ライダーが奢ってくれたもずくを啜りながら、彼の何気ない話に適当な相槌を打っていたサイタマだったが、ふと会話が途切れた彼に視線を移した。
「どうした?」
「あ、いや……ゴメン。ちょっと昔のことを思い出してしまって」
気まずそうにコップに残った酒を一気に流し込む。
それでも流しきれない空気に、苦笑を浮かべ口を開いた。
「サイタマ君はどうしてヒーローに?」
「んー……小さい頃見てたテレビの影響? まあ、22歳までは普通に就活してたんだけどな」
意外そうに「そうなんだ」と小さく呟くと、無免は視線を空になったコップに移した。
「……俺も小さい頃に見ていたヒーロー達に憧れて、ずっとヒーローになるべく頑張って来たんだ」
「なんか、分かる」
蒟蒻に齧り付きながら、サイタマは頷いた。
自分のように流されて生きてきて、突然の転換期からヒーローを目指したのではなく、幼い頃から純粋にヒーローに憧れ、努力してきた。そんな風に思わせるものが無免にはあったからだ。
だが、無免はそのまま口篭った。
暫く無言が続き、次に言葉を発したのはサイタマがおでん盛り合わせを、あらかた食べ終えた時だった。
「……でも、実は一度だけ心が折れた時があってね」
「……ふーん。あ、昆布と大根と竹輪追加で」
「ハイよっ!」
聞いてるのか聞いてないのか、分からないような態度のサイタマだったが、今の無免にはそれ位の温度が心地よかった。
おでんを食べ続けるサイタマの横で、コップを見つめながら独白のように、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。
「……中学に上がってすぐ、不良に絡まれた同級生達を見かけたんだ。相手は二人組みの先輩で凄く怖そうだったんだけど、見過ごせなくてね……」