♀ツナ 

□どうして僕は
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「だいぶ噂が広まっているようです」
「そう、で交渉は?」
「はい、手筈通りにこちら側の条件提示を了承させました」
「分かった」

草壁からの報告に雲雀は頷きこれでもう、あのご令嬢に関わることもないと吐き出した。

噂のご令嬢の父親と本人に結婚をチラつかせてこちらの仕事に有利に事を運ばせた。
もちろんハナから結婚するつもりなんてない。


(僕が結婚なんてありえないだろう)

一人クツリと口端を上げ笑う。

ふと、ツナのことが頭に浮かんだ。

どの女も雲雀を欲しがり結婚を強請るがツナは望まなかった。
夜を共にし幾度となく肌を重ねてもツナは何もも望んだことがなかった。
いや、ひとつだけ、たったひとつだけをお願いされた。
それは・・

(ただ傍にいたいだけなんてさ・・馬鹿な子)


だからツナの傍は楽だった。
ひだまりのように緩やかな気持ちになれた。

例えば精神が酷く疲れたときツナは黙って側にいてその熱を分け与えてくれた。
例えば雲雀が気紛れに優しくしたい時それを嬉しげに受け入れてくれた。

だからいつまでも傍らに置いておいてもいいだろうと思った。


ツナが雲雀の前から姿を消してしまうまで。

――――――――――――



好き・・だから、傍に居たい

好き・・だから、傍に居れない


相反する想いにはさまれたツナは、後者を選んだ。
それは他でもない雲雀のためだった。

体の異変に気付いたのは、割りとすぐだった。
基本的に周期が一定の自分の生理が来ないし、吐き気、倦怠感がずっとあったから。

念のために小さな病院の産婦人科にて受診してもらうと結果は見事に妊娠2ヶ月。
 

(多くは望んでいなかったけど・・嬉しい)

ほんのりと頬を染めてそっと自分の薄い腹に手を充てる。


(オレは・・嬉しいけどヒバリさんはどうかな?)
 

脳裏に浮かぶは漆黒の恋人。
 

(とりあえず言ってみよう)



そう決意して雲雀の執務室に向かった。
デートをキャンセルして以来、あの噂を聞いて以来の久しぶりの顔合わせだ。

するとドアの向こうからは草壁とのやり取りが聞こえた。

「・・では結婚に関しては」
「あぁいいよ、大して重要でもないけど」
 

あぁ、やはり噂は本当だった。

雲雀が結婚。
雲雀が結婚する。


(・・結婚するのか、じゃ赤ちゃんのこと、言えない)


結婚するのに、雲雀の子宿した女がいては雲雀の迷惑だ。
雲雀に疎まれたくはなかった。


(多くを望んでいたわけじゃない、ただ・・)
 

「・・ごめん」
 

まだ膨らんでもいない薄い腹をを摩り謝るツナの姿は、壊れ易いガラス細工のように繊細で儚かった。




そしてボンゴレの十代目、ツナは姿を消した。
誰にも何も言わずに幾つかの置き手紙を残して。

ボンゴレ側から連絡を受けて雲雀がそこに向かうとそこにいる顔なじみがみな驚愕していた。
残された手紙には父母に対する詫びと自分の親しいもの達に対する謝罪。
そしてボンゴレをザンザスに委ねる旨。
探さないで欲しいという懇願。

「どうして!」
「獄寺、そばにいて何か気がつかなかったのか?」
「何も・・ただ時折ぼんやりとしているくらいしか・・」

ツナの守護者や兄弟子が騒ぐ中、雲雀は一人静かに冷めた視線を送る。

(バカバカしい・・あの子が消えたくらいなんてことないじゃないか)

そんな雲雀にツナの元家庭教師が声をかけた。

「お前は何か知らないのか?」
「僕には関係ない」

何を今更と答えれば漆黒の男はニコリともせずに

「馬鹿な男だ」

そう言って騒ぐ群れの中に戻っていった。

(僕には何も関係ない)

考えを改めたのは半年ほど経ってからだった。



雲雀はイライラと毎日を過ごしていた。
底知れない焦燥感、ムカつき。

(イライラする・・)

なんでも自分勝手に好きに気ままに生きてきた自分がこれほどの想いに苛まされるなんて。


(あの子がいないからだ・・)
 
そうだ、気がついたのだ。
いつだって傍にいて笑って微笑んで慈しんでくれたことを。
愛してくれたことを。


そうしてまた自分も気づかずに彼女を愛していたことを。



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