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□恋する I's
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春、桜が舞う薄曇りの中、雲雀は足早に体育館に向かう。
今日は並盛中学校の入学式だった。
群れ嫌いな自分ではあるが風紀を乱されるのはもっと嫌いなため風紀委員長として一言言っておかねばならないために時間を見計らって体育館に来たのだ。
(・・ん?)
見れば体育館の入り口でピョコピョコと跳ねまわる小さな少年がいた。
閉ざされた入口に手をあて深く溜息をついた後またピョンピョンと中を覗きこもうとしていた。
よく見れば真新しい制服。
見たことのない顔。
(新入生?・・なのに遅刻したの?)
立ち止まりジッと少年の背を眺めていると少年はいきなりクルリと向きを変えて此方に向かって歩き出した。
咄嗟に姿を隠し少年の動向を見守っていると近くにある桜の樹に向かって行くようだった。
並中でも一際大きなその桜の樹は雲雀のお気に入りでもある。
何をするつもりなのかと黙っていると少年は樹に背を預けて目を瞑った。
さやさやと渡る風が桜の樹を揺らすと花弁が舞う。
それが少年の柔らかな髪に、頬に、指先に触れるのを雲雀は一幅の絵を見ているように見惚れていた。
閉じられた瞳がゆっくりと開かれていくと雲雀はますます気を引かれる。
大きな蕩けそうな蜂蜜色の瞳。
柔らかなふくふくとした赤ん坊のような頬。
今が食べ頃と誘うような、さくらんぼの唇。
ぶかぶかな制服の袖からちょっぴりだけ出た指先。
ふわふわと柔らかな和毛はきっと子猫のような手触りに違いない。
(こんなに可愛い子・・見たことがない)
その時、突風が吹き桜の花弁を巻き上げ花煙の中、雲雀と綱吉は初めて視線を交わしたのだ。
雲雀の中で、それが綱吉に対する恋する合図だった。
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