MSA
□楽園のDoor
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「ここが恭ちゃんちだよ」
沢田らしき人物に手を引かれ自分の家であるというマンションに足を踏み入れたのは体育倉庫で異変に気づいてから一時間後のことだった。
自分が自分ではないという荒唐無稽の説明を何故かすんなりと沢田は受け入れ、とにかく家に帰ろうと手を引き学校から歩いて30分(普段はバイクで通勤しているらしいが沢田が一緒だったので歩きになった)。
部屋に入るのに鍵はと思えばさっさと沢田が開けて部屋に入る。
(どういう関係なんだ?幼馴染とは言っていたが・・)
とにかくお茶でも飲もうとそこに座っていてと言われ黒革張りのソファに腰掛ければ沢田がちょこまかと動き回っているのが目に入った。
しかし自分の知る沢田綱吉に比べまだ何処かあどけない。
(そう・・あの頃の沢田だ・・)
中学生の頃の沢田綱吉だ。
あの頃の彼はいつだって自分に怯えおどおどとして何処か身構えた印象が強かった。
自分以外にはこんなふうに、嬉しげに笑っていた。
自分に笑顔を見せるようになったのは・・?
いつしか慣れてきたのか柔らかく笑うようになってくれたのは最近・・高校に入学してからじゃないだろうか?
「お待たせしました」
ゆっくり慎重にサイドテーブルにお茶を置くとふぅとやり遂げたように息を吐きニッコリと沢田は笑った。
そしてカップを両手で掴むとフゥフゥと冷ますように息を吹きポツリポツリと話しだした。
「ふ〜ん、じゃ君と僕は幼馴染で今は教師と生徒という間柄なんだ」
「はい」
どこか困ったような笑みを浮かべて沢田は続けた。
「・・恭ちゃんは並中の数学の先生です」
風紀委員の担当の先生でもあります。
厳しくて有名なんですよ?
(やっぱり僕は僕っていったところか)
それから沢田の恭ちゃん自慢が続いたが肝心のところを僕は聞いた。
「ねぇ・・どうしてあんなところにいたの?」
「!それは・・」
聞かれたくなかったのであろうか?少し視線を外すと今まで饒舌だったのが嘘のように口を閉ざしてしまった。
しかし僕はこの異常事態を引き起こした原因を探るために教えて欲しいと沢田を問い詰めた。
しばらく逡巡したあと沢田は小さく答えた。
「オレ・・ダメなやつなんです」
みんなからダメツナ、ダメツナって呼ばれてます。
シュンとして俯き頑張ってるんですけどという小さな呟きが聞こえた。
「そんなオレでも仲のいい友達がいて」
そういうと今度は友達自慢で嬉しそうにニコニコと笑う。
百面相のようだなとくるくる変わる表情に気をとられつつ話を促す。
するとまた俯き
「だから・・なんでオレなんかが彼らと仲いいんだって・・」
一部の子達から反感買ってしまって呼び出されて閉じ込められちゃったんです。
誰にも気がついてもらえそうもなくて体育倉庫の小さな窓から抜けられないかな?ってよじ登っていたら突然扉が開いて恭ちゃんが・・。
「オレ驚いて窓枠から手を離しちゃって・・恭ちゃんはオレを助けようとして下敷きになっちゃったんです」
だからオレのせいなんです。
ごめんなさい。
そういうと話しながら溜まっていた涙が感極まったのかポロポロと零れ落ちる。