MSA
□始まりの I's
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放課後の教室。
補習授業の際、指定された席は憧れの京子の席だった。
ドキドキと高鳴る胸を押さえて腰を下ろし正面の先生の説明に耳を傾けようとするが一向に集中できない。
大きく息を吐いて鉛筆を握ろうとしたが手が滑って落としてしまった。
「す、すいません!」
胡乱気に見つめる先生に謝罪を入れて落ちた鉛筆を拾おうと身をかがませていると京子の机の中が目に飛び込んだ。
(あっ!)
ちょこんと置かれたいくつかの消しゴム。
そういえば最近クラスの女子が可愛い形の消しゴムを集めては皆で見せ合いっこしていたのを思い出した。
(京子ちゃんの・・一個だけ・・)
憧れの女の子の消しゴム。
綱吉はそっとポケットにしまい込んでしまった。
それを見ている者がいるとも気が付かずに。
――――――――――
風紀委員長の呼び出しを受ければ何を置いても出頭しなければ命に係わる。
並中生ならば誰もが知る常識だ。
(オ、オレなんかしたかな??)
先程受けたスピーカーからの呼び出しに半分泣き出しそうになりながら廊下を急ぎ歩く。
誰もいない誰も近づかない応接室前で息を整えると大きく息を吸い込んで吐いてと何度か繰り返した後、ノックしながら名乗りを上げた。
「さ、沢田です!」
「・・入って」
失礼しますと扉を開けてお辞儀をする。
こっちにおいでと低音の絶対君主からの声に下げていた頭を上げてぎくしゃくと近づく。
ボンゴレの関係で自分の守護者ということになっているが、ほとんど接点はない。
時々リボーンを訪ねて自分の部屋に来ているようだが話したことはない。
だから仲間意識よりも遠くから思う羨望、尊敬の意識の方が強い。
(一般の生徒よりはマシなくらいだろうけどオレなんてヒバリさんにしたら草食動物だもんな・・それにしても・・怖い)
ジッと射抜くような視線に怯えながら御用の向きはなんでしょうか?と小さな声で尋ねると
「窃盗は犯罪」
「?」
顎の下で組んだ手を外して机の上をトンと叩く指先が男の人にしては綺麗だななんて考えていると
「昨日、君が女生徒の机の中から消しゴムを盗んだ件」
「!」
サッと青ざめる綱吉にニッコリと笑いかけると雲雀は続ける。
「窃盗は犯罪。咬み殺されたい?」
「・・・」
「でも、こんなことで咬み殺すのは・・」
「えっ?」
もうグチャグチャになるだろうことを覚悟していた綱吉はどうやら雲雀が別の選択肢を用意していたらしいことに驚く。
「痛いのがいい?」
「あっ・・嫌です!」
「そう・・じゃ黙って見逃してほしい?」
「で、できれば」
スルリと音もなく立ち上がったと思ったらいつの間にか目の前に立ち自分を見下ろす鋭い黒の瞳に綱吉はビクッと身体を震わせる。
おかしそうにクツクツと雲雀は笑うと綱吉の顎先を指先一本で上に向かせてとんでもない要求を突き付けた。
「ならばキスさせなよ」
と言って有無を言わさずに唇を重ね合わせた。
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