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□楽園のDoor
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夜の街を歩く。
肩に羽織った学ランがヒュンと通り抜けた風にフワリと舞い上がったとき雲雀は秋の匂いを感じた。
どこからともなく漂う甘い香り。
(金木犀)
それを頭に浮かべた時に脳裏に浮かんだのは自分を呼ぶ少年だった。
『ヒバリさん』
大きな琥珀の瞳とぷわぷわと揺れる亜麻色の髪。
華奢な肢体と太陽のような笑顔。
(らしくない)
自嘲じみた笑みを浮かべるとどこからともなく取り出した愛器を握り
「いつまでつけ回すつもり?」
咬み殺してあげるから出ておいでよと振り返りもせずに不敵に笑う。
するとわらわらと何処からともなく這い出してきた黒服の男達は一斉に雲雀に飛びかかっていった。
「つまらない」
たいした運動にもならないと言い放ち懐より取り出した携帯で草壁に後処理を言いつけると何処からかまた金木犀の香りを感じた。
ふと意識がそれに囚われた瞬間、ハッと気がついた時には目の前に倒したはずの男の一人が何やら手に隠し持っていたスイッチを押していた。
ピカリと辺りが一瞬光ったと雲雀が思ったその時に雲雀は意識を飛ばした。
「・・ちゃん、恭ちゃん」
ねぇ起きて、起きてよ
何やら幼い子供の泣き声を我慢するような声がする。
(きょうちゃん・・って僕のこと?)
あちこち体がズキズキと痛むのは先ほど爆風に吹き飛ばされたからだろうか?
とにかくゆさゆさと揺さぶられるそれをやめさせようと重い瞼を開くと目の前いっぱいに泣くのを我慢している蜂蜜色の少年が広がった。
「恭ちゃん!よかった!!」
「・・・」
ガシリと自分に飛びつきよかったと繰り返す少年は自分の記憶に間違いがなければ・・
「沢田綱吉?」
「ん?なに恭ちゃん?」
目元の涙をぬぐいつつ良かったと繰り返す少年はニコニコと微笑み、ギュッとしがみつきながらもその手はフルフルと震えていた。
その震える手を気にしつつもとにかく離れてもらい一つ頭を振って辺りを見回すとそこはゴチャゴチャとした、しかし見覚えのある空間でもあった。
「・・体育倉庫?」
暗い中だが目がなれてくればボンヤリと白いマットやバレーボール等の備品も見えてきた。
「なんで?・・僕は・・」
人気のない暗い道でどこか得体の知らない奴らと戦い、油断した瞬間に爆弾で吹き飛んだはずと考えていると
「オレのせいで・・ごめんね」
鼻を啜り上げる沢田がごめんなさいと繰り返していた。
ボンゴレに関する某なのかと構わないよと口を開こうとした時に先に沢田が
「恭ちゃんを巻き込んでオレが倒れこんだせいで・・」
痛くない?頭打ってない?
どこか必死な様子の沢田に僕は戸惑う。
それに先ほどから気になっていた。
「ねぇどうして僕を恭ちゃんって呼ぶの?」
「えっ?どうしてって・・」
ポカンとした沢田はそれでも大きな瞳をパチパチとさせながら
「だってオレ達、幼馴染だから」
なんで今頃そんなこと?
あっ、そっか・・
ニコリと笑うと
「大丈夫、今は誰もいないから・・人がいるところではちゃんと雲雀先生って呼んでるよ?」
ケジメだもんねと眉根を寄せて笑う姿は何処か痛々しい、けど
「・・先生?僕が?」
「・・恭ちゃん??」
よく見れば僕は見慣れないスーツを身にまとい何よりも
「大きい・・」
体つきが違っている。
手足もいつもの自分より長い気がする。
立ち上がり辺りを見回すと出入り口の扉が目に入る。
恭ちゃん大丈夫?とふらつく僕を支えるように沢田が寄り添う。
鈍色の扉を開きその横に設置されている姿見をみて僕はらしくなくぼう然とした。
そこにはどう見ても大人になったとしか思えない自分が写っていた。
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