SSA
□mysterycall
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恋人は可愛い顔をしてココという時は絶対に折れたりしない。
普段は自分が甘やかされて
「もぉ〜ヒバリさん、仕方ないんだから」
と笑って譲られることが大多数だ。
自分は哀しいくらいに我が強い。
そんなことは互いに恋人関係になるまでに理解していた。
僕は頑固で意固地で、意地っ張り。
それがいいふうに動くときもあるけれど、こういう時は最悪だ。
こういう時・・ケンカなんてときには。
雲雀はベッドに丸まり低くうなり声をあげた。
ケンカの原因がなんなのかなんてもう忘れた。
きっとくだらないことなのだ。
とてもくだらなくて馬鹿馬鹿しくて、こんなことでケンカをしたのかと誰かがきけば呆れるくらいの理由。
そうは分かっていても謝ることができなくて。
こういう時、自称師匠や野球少年が羨ましくなる。
ごめんと謝って、笑えばきっと許してもらえた。
けれど今、それはできなくて。
(今日は前から約束していた年末なのに)
一緒に料理をして一晩過ごそうと約束していた。
初日の出を見ようと。
よく泊まりにはきていたけれど、そんなふうに約束をしたのは初めてだったから、なんだかひどく特別に思えたのに。
「綱吉・・」
なんだか無性に切なくなった。
一人ぼっちで生きてきて別段困ることもなくきっとこのまま一人過ごしていくのだろうと思っていたのに。
いつの間にか自分の心に入り込んで色を付けた少年。
安心して心を預けられる存在。
好きだと告げたのは綱吉が先だったけれど、もっと以前から自分は惹かれていたから。
好きだと言われて、思わず言葉に詰まったのはいつのことだろう。
雲雀の無言に綱吉は誤解して、言葉を撤回しようとした。
だから思わず綱吉の胸ぐらを掴んでキスをした。
あれから、どれほど経っているのだろう。
「・・・」
埒があかない。
雲雀はそう思って腰を上げた。
謝ろうと思った。
そう、謝って許してもらおう。
意地を張っていい所じゃない。
雲雀はふうと息をつくと携帯を取り出した。
相手が出たら真っ先に謝ろうと思って。
「・・あれ?」
なのに、電話は話し中。
こんな時に誰と電話をしているのかと腹が立った。
だが、これで怒っては元の木阿弥。
ならばとイライラと歩きながらしばらく待って再度携帯にコールする。
「・・・」
だが、またしても話し中のコール音が響いた。
自分の愚痴を誰かと話しているのだろうか?
いや、それよりも。
「・・あ」
思いついたことに雲雀はごくりと息を飲んだ。
悪口を言っているのならばいい。
(もし、そうではなくて、心変わりをしてしまっていたのなら?)
意地っ張りな自分に呆れて少女を求めたなら。
あり得ないことではないのだ。
綱吉は男女ま別なくもてるのだ。
自分の恋人としての立場を常に狙っているものは周りにたくさんいる。
綱吉が手を差し出せば簡単に後釜は見つかるのだ。
「・・・」
考えると、足元からじわりと凍えた。
どうしようと頭の中で考えが回る。
(どうしよう、どうしよう?)
もうあの子の横顔を見ることはできないのだろうか?
ほんの少し下にある顔に、安心することはできないということなのだろうか。
考えれば考えるほどたまらなくなってくる。
(怖い・・怖い・・)
自分が恐怖心を持つなんて
雲雀は震えてきた手をぐっと握って、拳を作った。
「・・行こう」
いつまでもここでぐずぐずしていても埒があかない。
もし、心変わりをしていたのなら、ならば。
「僕は・・」
プライドも何もかなぐり捨てて縋り付いてみようか?
好きなんだと縋ってみようか?
そうしたらあの子はどうするだろう?
呆れるかも知れない。
あの子は『雲雀恭弥』という虚像に憧れさえ持っていたようだから。
なのに、その中身はこんな脆弱なのかと呆れるかも知れない。
呆れられたらその時はもう一度縋ってみようではないか。
そうして手に入れるべきものだから、恋というのは。